事業会社の現場は既にAOPの内容を追い越している?

堀江リサーチ&アドバイザリー
代表取締役
堀江 貞之
1981年、野村総合研究所入社。1986年、「NRI債券パフォーマンス指数」(後、NOMURA-BPIと改称)を開発。1986年~ 88年、ニューヨーク事務所勤務、オプション・モデル等を開発。1996年~2001年、野村アセットマネジメントでGTAAと通貨オーバーレイファンドを運用。2017年10月~2022年8月、GPIFの初代常勤経営委員兼監査委員。

2024年8月、政府は機関投資家向け行動規範として、5つの原則からなる「アセットオーナー・プリンシプル(AOP)」を策定・公表した。当初、AOPにどのように対応すべきか心配する声が多かった確定給付(DB)企業年金については、公表された内容を見ると、2017年に制定されていた「DB企業年金に係る資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン」(以下DBガイドライン)と趣旨は変わらなかった印象だ。

とはいえ、当然特筆すべきアップデートもある。例えば企業年金について言えば、母体企業の役割について注目するべきだろう。

例えば、【原則3】(※1)は、企業年金基金よりも、年金制度の運営主体である母体企業に対するメッセージである点に特徴がある。つまり、母体企業と関係の深い金融機関の運用子会社や信託銀行・生保などに投資が集中することは、年金制度運営における顧客である従業員の最善の利益から見て望ましくない、との暗黙の認識が示されていると考えられる。

※1 原則3「運用を金融機関等に委託する場合は利益相反を適切に管理しつつ最適な運用委託先を選定するとともに、定期的な見直しを行うべきである。」

「母体企業から投資の執行機関である企業年金基金に対して、投資目的に沿った運用会社選定を行う自由度を与えるべき」とのメッセージでもあるだろう。

ある程度の規模を持つ企業年金基金であればAOPが述べる運用高度化の要件はほぼ満たせていることを踏まえると、本来、AOPへの対応を真剣に検討すべきは母体企業のほうかもしれない。

視点を変えれば、DB企業年金基金の資産総額は約60兆円と公的なアセットオーナーよりも規模が小さいのに比べて、母体企業の従業員が保有する金融資産ははるかに大きな金額であることも注目に値する。

従業員が勤める事業会社が、AOPの原則4(※2)に関連して、DC(確定拠出年金)などを通じて投資教育を充実させることで、従業員が持つ金融資産の効率化・高度化が行われ、従業員の金融資産が増大する効果の方が、資産運用立国という観点からははるかに大きな影響を及ぼすのではないだろうか。

※2 原則4 「アセットオーナーは、ステークホルダーへの説明責任を果たすため、 運用状況についての情報提供(「見える化」)を行い、ステークホルダー との対話に役立てるべきである。」

ちなみに事業会社の従業員からは、自社のDC年金ファンドの品揃えに対する不満の声が上がっており、採用活動においても応募者からDC年金ファンドへの質問が増えるなど、現場レベルではAOPの内容を待たず対応を迫られていると聞く。現実の姿は既にAOPの内容を先取りしているとも考えられ、今後の変革の加速が望まれる。

DB年金のAOP受け入れは2025年春以降に

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