熊谷 厚志

熊谷 厚志
三菱UFJ信託銀行株式会社
ニューヨーク支店 信託業務室
ファンド分析グループ 調査役

2012年、三菱UFJ信託銀行入社。2018年よりヘッジファンドの評価・選定・モニタリング業務に従事。2022年よりニューヨーク現地法人にて、ヘッジファンドをはじめとするオルタナティブ投資ファンドの現地調査・モニタリング業務を担当。東京大学経済学部金融学科卒業。CFA協会認定証券アナリスト。

Ⅰ.はじめに

2023年12月に金融庁から発表された資産運用立国実現プランには、オルタナティブ投資を含めた運用対象の多様化や、アセットオーナーシップの改革などが含まれており、アセットオーナーには運用の幅を広げつつ、運用委託先を厳しい眼で見極めることがより一層求められている。

これを受け、投資ファンドの詳細な調査・評価を行うデューディリジェンス(以下、DD)プロセスの重要性がますます高まっている。

今後オルタナティブ投資への更なる注目が予想されるなか、一定の流動性を有し、多様な収益源泉(戦略)への分散投資手法である「ヘッジファンド」は、従来から国内の企業年金基金からの投資実績も多い一方で、過去に大規模な詐欺事件や著名ファンドの破綻を経験してきたアセットでもあるため、運用会社・ファンドの運営面の評価を行うDDに求められる役割は特に大きい。

こで本稿は、ヘッジファンドにおけるDDのなかでも、定量化が難しい非投資関連リスクに焦点をあてて、その役割や重要性、及び具体的プロセスと近年のトレンドについて述べていく。

Ⅱ.ヘッジファンド投資におけるデューディリジェンス

まず、ヘッジファンド投資におけるDDとは何か、その役割や重要性について説明する。

1.DDとは

DDとは、ファンド投資を行う前に、対象となるファンドや運用会社に対して徹底的な調査と分析を行うプロセスのことである。調査・分析されるリスクは、ファンドの投資に直接関連するリスク(投資関連リスク)と、それ以外のすべてのリスク(非投資関連リスク)の2つに分けることができる。

投資関連リスクは、市場リスク、信用リスクおよびそれらの派生形が主な分類とされる。投資家は伝統的に投資関連リスクには馴染みがあり、DDにおいても、当該リスクに焦点が置かれる傾向がある。これは、従前より投資関連リスクを定量化する手法が研究・開発されており、実際の損益とこれらの投資関連リスクをより容易に関連付けるようになったことが背景にある。一例として、Value at Risk(VaR)のように特定の信頼水準でポートフォリオが一定期間内に被る可能性のある最大損失額を測定するためのリスク指標として広く用いられている事が挙げられる(※1)。

一方で、外部の運用会社に運用を委託することの多いファンド投資では、過去に詐欺事件や経営陣の不祥事などのリスクが顕在化する事象が報じられており、投資家は幅広い非投資関連リスクにも焦点を当てる必要がある。一般的にこうした非投資関連リスクは「オペレーショナルリスク」と整理され、定量的な分析が難しい項目も多いため、評価には従来から行われてきた投資関連リスクを対象としたDDとは異なる専門性が必要となる。以下がオペレーショナルリスクの主な例である(図表1)。

図表1:主なオペレーショナルリスク
図表1:主なオペレーショナルリスク
出所:三菱UFJ信託銀行作成

このリスク整理に基づいて、一定以上の規模を有する投資家は、DDを行うにあたって、投資関連リスクを精査するインベストメント・デューディリジェンス(以下、「IDD」)と、オペレーショナルリスクの精査を行うオペレーショナル・デューディリジェンス(以下、「ODD」)に分けて実施するのが一般的であり、ファンド投資を行う際のリスクをIDDとODDという異なる目線から十分に把握することがDDに求められる役割となる。なお、弊社のDDプロセスにおいては、運用フロント業務を担う東京チームがIDDを、実地調査も柔軟に実施可能なニューヨークチームが現地からODDをそれぞれ担当する体制となっている(2024年7月時点)。

※1 例えば、VaR(95%)=10万円は、「95%の確率で1日あたり10万円を超える損失はない」ことを指しており、その日には10万円以上失うリスクが5%である、という意味になる。

2.ヘッジファンドにおけるODDの重要性

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