直接対話を重視した評価プロセス

DBJの評価認証型融資の特徴は。

木村 企業との直接対話を重視した評価プロセスだ。我々は特定のプロジェクトやアセットではなく、企業全体を評価させていただいている。お客様との対面ヒアリングでは、スクリーニングシートで浮かび上がった論点のほか、企業戦略全般における位置づけやPDCAサイクルの現状など、公表情報だけでは判断しきれない内容をお客様に直接確認している。

格付評価決定後の対話にも注力している。お客様の希望に応じて第三者の視点からフィードバックを対面で行い、今後取り組むべき課題の把握や経営の高度化に向けてサポートしていく。環境、BCM、健康経営の3つの格付融資とも評価項目は100前後あるが、内容は都度見直し、ときどきの社会経済情勢にふさわしい観点にブラッシュアップしている。

DBJの評価認証型融資の累計実績は、3つの格付合わせて1184件、融資金額は2兆577億円にのぼる(2019年3月末時点)。件数の半数以上は環境格付融資だ。

八矢 環境格付融資は2004年に始まった3つの中で最も歴史ある商品であり、継続的に改訂を重ねてきている。企業の環境活動は、かつては環境方針や環境目的の達成に向けて環境負荷低減に取り組む、いわば守りの環境対策が中心であったが、DBJは環境配慮製品・サービスの開発・拡販に向けた取り組みなど、環境価値拡大と企業成長の同時実現を目指す、本業と一体となった環境活動を重視している。

加えて、2014年度には評価基準を大幅に見直し、マテリアリティやKPI(重要評価指標)といった概念を評価の視点に盛り込み、一律網羅的の項目で評価するのではなく、それぞれの事業戦略やリスク・機会を踏まえて特定された重要な環境・CSR(企業の社会的 責任)課題について、企業実態に応じた取り組みを評価できるように改訂した。さらに2018年度より評価体系を「環境経営」と「サステナビリティ」に区分し、従来の「環境経営」に加え、気候変動をはじめとする環境・社会課題の顕在化や事業環境の変化に対し、企業がどのように長期戦略を描き、持続的な価値創出・拡大を図るかについても評価し、対話を通じて取り組みをサポートしている。

水口 1996年にISO14001と呼ばれる国際規格ができて、環境マネジメントシステムという考え方が登場した。ISOは国際標準化機構であり、当時は環境経営を標準化しようという発想だった。その後、環境問題への理解が深まり、ある企業はCO2削減、別の企業は原材料調達など、企業によって異なる重要課題が認識されるようになった。公開情報を一律の基準でチェックするだけでは、企業の環境経営や持続可能性を正しく評価できない時代といえるだろう。DBJの環境格付融資が、企業の個別性を重視しつつ、対面でのヒアリングを通じて潜在的な成長力を見極めるのは現代にふさわしい手法と位置付けられる。

評価認証型融資で累計件数が2番目に多いBCM格付融資は、どのようにして企業のBCM(Business Continuity Management:事業 継続管理)を評価するのか。

蛭間 地震・雷・火事・親父の時代から、最近は自然災害、台風・豪雨、サイバーテロ、感染症、地政学、気候変動などリスクが変化している。一方で、災害や危機の原因は、我々自身にあり、ハザード(災害素因)に対する脆弱性が、被害を拡大させている。東日本大震災や原子力発電所事故の事例を出すまでもなく、企業の事業継続、供給責任を脅かすリスクは、多種多様で複雑化している。

BCM格付は、そのような有事の危機対応力を、どのようにして事前に準備し、その実効性を高めているかのマネジメント状況を問う。評価項目は、人命や安全の確保、事業資産の損害を最小限にとどめる「防災」と、供給責任を果たすべく中核事業の継続を実現する「BCM」の双方で構成されている。具体的な評価項目としては、耐震化対策、初動対応訓練の実施、事業継続の戦略策定、サプライチェーン管理などが挙げられる。

「地域 BCM・地域復興への貢献」も重要な評価ポイントだ。2019年4月にBCM格付を取得した九州地方の半導体製造会社は、同じ県内の同業他社間での情報共有の仕組みを構築していることや、業界内での共助を通じた地域BCMの高度化に向けた検討を進めている点などを評価させていただいた。

座談会2

水口 地域や業界内の共助を評価する視点は興味深い。例えば、サプライチェーンにおける豪雨や水害のリスクは年々高まっており、危機発生時は個別企業だけで対応するのは難しい。復旧までのスピードは、地域や業界での協力体制が大きく影響するだろう。

BCM格付融資の取得企業が増え、様々な地域・業界で共助の取り組みが広がれば、社会全体のリスク低減と持続可能性の向上につながるはずだ。また、BCM格付は危機管理に優れている証でもあるため、将来にわたる取引相手にふさわしいとの企業ブランド向上効果も見込める。