腕利きコンサルに「新米」常務が聞く! 年金資産運用・基礎の基礎 【株式編 第7回】まとめ〜ファクターの特質踏まえた分散投資を
株式編では前回までに①株式投資は企業の成長を収益の源泉としており、企業年金の資産運用にとって今後も重要なリターン・ドライバー②バリュー株やグロース株、クオリティ株などといった特性の異なるファクターが複数あり、それらの特徴を認識してグローバルに分散投資することが重要──といったことをラッセル・インベストメントの金武伸治さんから学んできました。第7回となる今回は株式投資の「まとめ」編です。
運用戦略構成の構築
これまで伺ったところで、株式投資に関する知識は一定のレベルまで得られたように思います。では、実際の投資はどう進めていけばいいのでしょうか。
金武 これまでは株式の各ファクターについて、個別にその特性などを紹介してきました。実際の投資にあたり最も悩まれる点はファクターやスタイルをどのように組み合わせたら良いのかということではないでしょうか。そのため今回は、それらの組み合わせ方に焦点を当てることで株式編のまとめとしたいと思います。
ファクターやスタイルを組み合わせることを運用戦略構成の構築と呼びます。例えば株式資産クラス内において、パッシブとアクティブの比率をどのようにするか、アクティブにおいてバリュー株とグロース株の比率をどのようにするか、といった具合です。
運用戦略構成の前提となる政策ベンチマークとしては、グローバル株式であればMSCI World、国内株式と外国株式であればTOPIXとMSCI Kokusaiが一般的ですが、ポイントはいずれも先進国の大型株であることです。
よって、運用戦略構成に組み入れるべき特に重要なファクターはバリュー株、グロース株、クオリティ株、低ボラティリティ株(最小分散)となるでしょう。なぜなら、これらのファクターは全て先進国大型株に内包されているため、政策ベンチマークのリターンを上回ることを目指す運用戦略構成としての工夫の一環と言えるからです。
ただし低ボラティリティ株は、企業の業績や財務状況といったファンダメンタルズに基づくファクターではなく、標準偏差の低さという定量的なものです。このため、アクティブ運用の戦略構成を考えることとは、やや意味合いが異なってきます。
小型株やエマージング株はどういう扱いになるのですか。
金武 これらは政策ベンチマークに含まれないことも多いです。従って運用戦略構成における主要なファクターというよりも、選択的に組み入れるものと言えるでしょう。
先進国大型株と比較して小型株やエマージング株は、相対的に「市場の効率性」が低い一方で「銘柄の個別性」が高いとも言えます。この意味では、特にアクティブ運用における超過リターンの源泉、つまりアルファ収益源泉と見ることもできます。このため、アクティブ運用者の投資判断に任せ、運用環境に応じて選択的に組み入れる。つまり、アルファ収益機会に応じて個別銘柄レベルで組み入れるということも、ひとつの考え方であると思います。
このような観点から、運用戦略構成における主要なファクターをバリュー株、グロース株、クオリティ株に絞り、構成方法についての考え方を紹介したいと思います。
アルファ収益機会の分散
確かにお付き合いのある企業年金でも、グロース株などに多く投資してリターン、リスクとも高めの基金がある一方で、バリュー株中心、あるいはすべて最小分散という先もあります。どういった配分が正解なのか悩んでしまいます。
金武 株式資産クラス内の運用戦略構成の構築についても分散が基本となります。
例えば、バリュー株とグロース株との分散について考えてみましょう。伝統的なバリュー株運用とは、企業の本源的価値に対して株価が大きく割安である、と判断される銘柄を発掘し投資するスタイルです。株価が見直され、本源的価値に回帰する過程での株価の反発がアルファ収益源泉と言えます。
一方で、伝統的なグロース株運用とは、将来的な利益成長が大きいと判断される銘柄を発掘し投資するスタイルです。利益成長の確度が高まる過程での株価の上昇が、アルファ収益源泉と言えます。
このように同じアルファ収益を追求するアクティブ運用であっても、その背景となる株価上昇の理由が異なります。
またバリュー株相場やグロース株相場という言葉があるように、投資家の銘柄物色動向に応じて、バリュー株が有利な局面やグロース株が有利な局面が存在します。このためバリュー株とグロース株については、アルファ収益機会を確保する意味で、きちんと分散させることが重要です。分散の方法としては、バリュー株とグロース株ではリスク水準が異なることから、金額を同じにする等金額で分散すると、リスク配分ではバリュー株偏重になる傾向が見られます。このため等リスクで分散することが、ひとつの方法になると思います。
クオリティは組み合わせで活用
クオリティ・ファクターの組み入れについては、どう考えたらよいでしょう。
金武 クオリティ株運用に特化した運用商品も存在しますが、クオリティ・ファクターを組み入れたバリュー株運用やグロース株運用というスタイルが多いのが実状です。
1993年に発表されたファーマ-フレンチの3ファクターモデルのように、当初はバリュー・ファクターとグロース・ファクターがメインでした。その次世代モデルとして、クオリティ・ファクターが登場しました。つまり、クオリティ・ファクターは元々、バリュー株やグロース株のなかに内包されていたわけです。こうしたことからも、完全に独立したファクターではなく、むしろバリュー・ファクターやグロース・ファクターと組み合わせて利用した方が自然であるとも言えます。
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