一般への普及に向けてコマーシャルや握手会も

渡辺 J-REITのさらなる普及には投資家層の裾野を広げていく必要があると思うが、どのような取り組みをしていくべきか。

棚橋 個人を含めた投資家層の裾野拡大へ向けて、当社は個人投資家向けの合同説明会やIRセミナーなどを定期的に開催している。参加者アンケートを実施したところ、「初めて物流施設に投資するREITの話を聞いた」という意見が3割を占めるなど、まだまだ知名度の低さが伺えた。参加者は、現役世代の夫婦が一部いるものの、やはり60代以上の方が半数を占めている。

J-REIT普及のためには、一般の方向けにテレビコマーシャルを打つことや、ターゲット層の年代に合わせた芸能人との握手会を開催するなど、地道な活動の継続が第一歩だと考える。

小川 当社の株主構成比率は機関投資家が高く、個人投資家は6%程度。やはりJ-REIT全体でも露出不足が否めないと考えている。例えば、ARESの会員が100万円ずつ出資して広告コストにあてるなど、業界全体で取り組んでいくことで、認知度向上へつながるのではないだろうか。

田島  私としては、新たな投資家層として、若年層を挙げたい。J-REITをコツコツ積み立てることは、将来の資産形成に必ず役立つはずだ。60を超える銘柄すべてを見ていくことは機関投資家やアナリストですら難しいので、個人投資家には、REIT指数に連動するETFが適しているだろう。J-REITは自信をもって提供できる商品なので、さまざまな媒体でマーケティングを展開していくべきだと思う。

国内REIT規模30兆円達成にはデットの量的確保が必要

渡辺 外部成長が難しいなかで、各資産運用会社ではどのような戦略を考えているのか。

棚橋 J-REITには、NAV倍率(株式投資のPBR〈株価純資産倍率〉に相当)が1倍割れし、割安のまま放置されている銘柄も存在するなどの課題がある。我々が一番に目指しているものは、分配金の安定成長であり、それは投資家の皆様の満足度に貢献するものだ。昨今の厳しい不動産市場において分配金の安定成長は目指しにくい環境ではあるが、将来的には物件取得の安定性も考慮しつつ、さまざまな取り組みを進めていきたい。

小川 これまで特化型REITというと、伝統的なオフィスや住宅が多かった。昨今では、ホテルや物流といったものも徐々に増えてきている。また、今後は福岡リートのような新たな地方特化型、あるいはESGを意識した老人ホームや病院など社会的要請に応じた物件に特化したREITが出てくる可能性がある。

一方で、現状の61銘柄だけでも多いため、同じタイプの特化型が合従連衡していく流れも十分考えられる。当社の場合はオフィス特化型だが、働き方改革などにより優良なオフィス物件の需要が高まっている。現状の内部成長は絶好調で、当面需要が低下することはないと考えている。今後は、より一層良質な物件の取得を心掛け、流動性を高めて、海外の投資家にも参入していただくよう努めていく。公募の際はプレミアム増資、かつ継続的な分配金の成長を目指し、投資家の期待に応えていきたい。

田島 政府は国内の不動産投資市場の成長目標として、2020年頃までにREITなどで資産総額約30兆円を掲げている。現在、J-REITと私募REITを合わせた資産規模は約20兆円だ。目標額の30兆円達成には、エクイティだけでなくデットにも着目したい。今日のデット規模は8兆円で、その半分近くは3つのメガバンクからのローンだ。

エクイティの場合、国内外の機関投資家が投資する資産といえるが、デットは今のところ国内の銀行がほとんどを提供している。ここに成長の余地があると考えている。従来のローンだけでなく、ローンセカンダリーやキャピタルマーケットのボンド(投資法人債)など、多様な資産に参加する機関投資家が増えることが重要だと考えている。

当社の戦略については、冒頭で挙げたJ-REITの「専門性」「透明性」「流動性」のうち、専門性と透明性に関してとくにこだわり続けていく。当社は、オフィス、住宅、商業施設にそれぞれ投資する上場リート3つと私募リート1つを運用しており、国内外の機関投資家から個人まで、さまざまな投資家の皆様に最適な投資機会を提供することに努めていく。

座談会を終えて

J-REITマーケット拡大に向けて

渡辺 晶氏
コーディネーター
渡辺 晶

最前線で活躍される運用会社トップの皆様と、J-REITの魅力・将来性、課題などを改めて確認できる有意義な機会となりました。

貿易摩擦問題などで世界的にリスク回避姿勢が強まる昨今、国際情勢の影響を受けにくく、高利回りで安定・安全な投資先として、国内外投資家がJ-REITへの関心を高めています。活況を呈する国内不動産の売買・賃貸市場を背景に、東証REIT指数は堅調に推移し、2018年11月にはJ-REITの時価総額が初めて13兆円を超えました。また物件取得競争が激化するなかでも、J-REITは順調に成長軌道を歩んでいます。

座談会ではさらなる成長に向けた課題として、投資家層の多様化、とくに公的・企業年金や個人投資家へのより一層の啓蒙の必要性があがりました。弊会としても引き続きJ-REITの普及促進活動に尽力して参ります。