欧州のインフレ・賃金動向を考える
収穫の秋。金融市場はと言うと、これまで同様、押し上げられる物価とそれを抑制しようとする金融政策の動きをどう読むかがメインテーマとなっている。金融引き締めに前向きなタカ派モードが強いと株価が下落し、逆に金融緩和に前向きなハト派モードが強くなれば株価は底堅く推移するようになるのであろう。
こうした繰り返しの中で季節が冬に移り変わったとき、おそらくは景気状況が現在と比べてかなり下押しされていて、金利引き上げ幅に縮小圧力がかかり出すと見ている。
しかし、その前には金融引き締めが見られる。2022年9月22日、米国FRB(米連邦準備理事会)はFOMC(連邦公開市場委員会)にて、政策金利を75bp(ベーシスポイント)引き上げることを決定した。
パウエル議長は緩やかな成長が継続していること、インフレの上振れリスクも指摘した上で、政策金利を十分に引き締め的な水準に引き上げ、かつ維持することが必要と判断したばかりだ。
翻って、スタグフレーション圧力が高い欧州だが、それでもこのFRBの動きに当面は追随する可能性が大きいと考える。理由の1つは堅調な賃金上昇圧力にあり、今回はその点を見ていくことにする。
欧州におけるインフレは、ニュー・レジームに突入
欧州ではエネルギー高騰が激しいことを考えるだけでもインフレ圧力は相当高いものだと想像がつく。
ユーロ圏消費者物価指数加重平均の推移を見ると(図表1)、5年間の移動平均線対比は、大幅に上振れていることがはっきりする。
ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁は、ポルトガルのシントラにおいて、2022年6月に「低インフレの環境に戻るとは思わない」と発言するまで、インフレはあくまで一過性としてきたわけだが、欧州の物価動向は明らかにニュー・レジームに突入していることが分かる。
賃金上昇圧力は継続か
ユーロ圏の賃金の伸びは他の地域に出遅れたが、この先も賃金上昇圧力は継続するであろうと考える。直接的報酬と間接的報酬(例:社会保険給付)を合算した1人当たり雇用者報酬は長期的トレンドを大きく上回るペースで上昇している。
これは労働市場のひっ迫により、新たな人材を呼び込みつつ、既存の人材の流出を防止するため、企業が賞与などの形で妥結賃金よりも多くの報酬の支払いなどを余儀なくされているためである。
そもそもこの妥結賃金について同上昇率は第1四半期に前年同期比2.8%から減速し、第2四半期には同2.1%となっているのだが、それでも2%程度が根雪のように賃金上昇を下支えすると捉えられよう。
ドイツでは最低賃金の引き上げが予定されている。10月に最低賃金は12ユーロに引き上げられ、こうしたことをきっかけに欧州全土に広がるストライキにより、かなりの数の賃金協約が再交渉されることになると見られる。
欧州委員会のサーベイ・データによると、労働力不足からくる圧力が今後の見通しに対する安心感の低下よりも勝っていることがうかがえる。つまり労使の力関係が依然として労働者有利に傾いていると考えられるわけだ。
2022年9月20日、ドイツ最大の労組であるIGメタルが、金属・電機産業の労使交渉で7~8%の賃上げを要求するよう推奨したと発表した。
インフレが進み、実質所得の埋め合わせを求める要求も増すと考えられる中で、IGメタルは強気に振る舞う可能性が大きい。2022年10月28日までに満足いく形で賃金交渉妥結に至らない場合、ストライキに入る可能性も示唆している程である。
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