加藤出レポート2022年7月28日号 黒田緩和長期化によるZombification
テレビを含め、様々なメディアで活躍中の加藤出チーフエコノミストによる最新レポートをお届けします。(提供元:東短リサーチ)
YCCを継続しても見えてこない持続的賃金上昇、むしろゾンビ企業が増加・・・
7月の金融政策決定会合後の記者会見で黒田総裁は、2%インフレ定着のために、賃金の上昇を目指しながらYCC政策を粘り強く続ける方針をあらためて強調した。しかしながら、現実には、超金融緩和の長期化は持続的な賃上げの実現を阻む方向で働いてしまっているように思われる。
負債総額1千万円以上の月間倒産件数(東京商工リサーチ調べ)は今年に入ってから500件前後で推移している。これはバブル経済ピーク時の1990年に匹敵する異常な少なさだ。当時は景気が良くて倒産が少なかったわけだが、現在は日銀の超低金利政策や政府の資金繰り支援策により延命されている企業が増えている。
企業の破綻が人為的に抑え込まれていることにより、日本は世界屈指の低失業率国となっている。先進国(人口百万人以上)で昨年失業率が最も低かったのは日本である(IMF)。
しかし「痛み止め策」を大規模に経済に投入し続けると、失業者は少ないものの、新陳代謝は極めて低調で、給料は上がらないという状況が常態化してしまう。政策によって淘汰を免れてきた低収益企業、いわゆるゾンビ企業は、基本的に薄利多売の商売を続けることになる。
その結果、日本中で“レッドオーシャン”(激しい競争で血の海のようになっている市場)が増加しがちになる。価格決定権をある程度持てそうな優良企業もその競争に引きずりこまれてしまい、全体として賃金が上がりにくい経済になってしまっている。低失業率は本来は望ましいわけだが、近年の日本は労働者が適材適所に移動していくモビリティが低い状態になっている。
それが続くと、経済のダイナミズムは失われ、停滞が長期化する。その状況自体が当局に対して「痛み止め策」の継続、または更なる「痛み止め策」を求めるため、日銀は益々出口に進みにくくなるという悪循環が起きてしまっている。
値上げは広がっても賃上げを実現できる内需型企業は限られそう
このグラフは、モノの卸売価格(国内企業物価指数=赤い線)と小売価格(CPI生鮮食品を除く財価格指数=青い線)の前年同月比である。両者の乖離をピンクで表している。現在この乖離は過去40年で最もマイナス方向に拡大している。小売業界で値上げが広がっているものの、卸売の世界における価格高騰には全く追いついていない。内需型企業のマージンは圧迫されており、賃上げできる企業は限られると思われる。
この記事は会員限定です。
会員登録後、ログインすると続きをご覧いただけます。新規会員登録は画面下の登録フォームに必要事項をご記入のうえ、登録してください。