企業年金の常務理事や運用執行理事など、年金資産運用の責任者や担当者に就任したばかりの方々のために、年金運用の「基礎の基礎」を、ラッセル・インベストメントでエグゼクティブコンサルタントを務める金武伸治さんに解説していただく連載。今回は「債券」編の第5回です。

<第4回記事はこちら>
債券は多種多様〜金利と信用、2つのリスク分散が肝心

金武さん。実は小生、債券の世界で金利の年限、あるいは残存年数の相互の関係というのが一番理解しづらい点です。国債にしても社債にしても、要は借金の証文みたいなものですよね。となれば、返済の残りの年数が長ければ長いほど、金利は高くなるのが常識でしょう。ところが最近の市場では、例えば「米国金利のカーブがフラット化している」あるいは「中期金利が長期金利を上回る」、といったことが発生しています。このあたりがさっぱり分かりません。

金武 金利の年限は短期(2年程度以下)、中期(2年~7年程度)、長期(7年~10年程度)、超長期(10年程度超)に大別できます。

図表1を見ていただきたいのですが、教科書的には金利の年限が長いほど利回りも高くなります。これを順イールドと言います。まさに、常識で理解できる関係になっています。

【図表1】イールドカーブのイメージ

イールドカーブのイメージ
出所:Bloombergのデータをもとにラッセル・インベストメント作成

ただし金融政策や経済環境、投資家需給といった要因によって、イールドカーブの形状はフラット化(短期金利と長期金利の差が縮小)や逆イールド化(短期金利と長期金利の水準が逆転)など、様々に変化します。

こうした、一般常識とは異なる金利のカーブが発生する原因の多くは、短期金利と長期金利では動き方が違うことにあります。主な理由は2つです。金利の年限ごとに市場参加者と、影響を受けやすい経済要素がそれぞれ異なることです。

短中期は銀行、超長期は生保

市場参加者が違うのですか。

金武 はい。下の図表2をご覧ください。短期~中期金利ゾーンの主要な参加者は銀行です。銀行は、預金を運用の原資として、短期金利を上回るような運用成果が求められますよね。これに対応するため短期~中期金利での運用が欠かせないのです。

一方、中期~長期金利ゾーンでは国債や社債の多くが発行され、その動向が金利に影響を与えます。発行額が多い国債は2年、5年、10年物で、これらが発行されると需給バランスが緩み、当該年限の金利が上昇します。社債も5年から10年物の発行がメインです。

【図表2】市場参加者と金利ゾーン

市場参加者と金利ゾーン
出所:ラッセル・インベストメント作成

長期金利ゾーンの主な参加者は、ヘッジファンドや資産運用会社などで、例えば国債先物取引を利用した債券ヘッジ(先物売り)や株式と長期国債間での資産配分の変更などを行っています。国債先物取引は10年国債が主要な対象となるため、その売買動向は長期金利に影響を与えます。

最後が超長期金利ゾーンです。主要参加者は生命保険会社です。生保は保険商品で預かった資金を運用しているため、運用期間が非常に長期になります。なお、大半の企業年金は短期金利ゾーンから超長期金利ゾーンまで幅広く投資しています。

このように債券市場では、年限金利ごとに異なる市場参加者が別々の目的で投資を行っています。このため、投資のタイミングや金額が異なり、それぞれの年限の金利が短期的に違った動きをすると考えられます。

市場参加者の違いに加えて、年限金利ごとに影響を受けやすい経済要素も異なる、というお話でしたね。

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