機関投資家のアクティブ運用の手順とも共通

辰巳憲一
学習院大学名誉教授
辰巳憲一
1969年大阪大学経済学部、1975年米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数

ESG活動を試みようとする企業は、ESGやその技術が非ESGである他の伝統的な活動や技術と矛盾しないか、相互に利益を打ち消さないか、早い段階で検討しなければならない。それがESGインテグレーション(統合化)の要となる。その手順の概略を説明してみよう。なお、辰巳憲一「ESG内部とその時系列の構造について」(『月刊資本市場』2021年6月、46-55頁)も併せて読んでいただくとさらに深く理解できるだろう。

ここで説明するのは、機関投資家がアクティブ運用する場合に必要になってくる手順とも共通している。投資家にとってESGインテグレーションとは、従来考慮してきた財務情報だけでなく(ESG情報を含む)非財務情報も参考にしながら投資先企業を決定し、市場平均以上のリターンを目指す手順の第一歩だからである。

下の図表にはESGから非ESGに及ぶ影響、さらにその際採られるべき対策の事例を示した。この図表は一般的な事例を記述しているだけなので、個々の企業は自社の特殊性を考慮して、社内担当部門が個々に作成していただかねばならない。

【図表】ESGから非ESGに及ぶ影響と対策の例

図表
(出所)注)様々な資料から筆者作成

ESG要因が非ESG要因に影響を与え、対策が求められるケースも

ESGがらみの原因(行動・規制)が非ESG要因に影響を与え、それに伴って対策を考えなければならなくなる事例は図表以外にいくつかある。例えば、Eについては、太陽光パネルを設置するために、所有地の木々を伐採せざるを得ない場合など例は多い。

他の例も挙げてみよう。企業が排出できる温暖化ガスを制限・管理するために、その量に上限を設ける排出量取引制度が採用されるようになっている。排出量取引制度は、企業の製造コストに影響するようになる。場合によっては、企業は事業計画の変更または断念せざるを得ない場合もあり、無視できないコスト要因になるからである。

ESGと非ESGを集約して統合する必要性が早晩生じる

炭素排出量が多い企業は、枠の過不足分を取引する市場において、脱炭素対策が進む企業から排出量枠を購入しなければならないことになる。その購入は、時間スケジュールを考えて行わなければなければならない。

機関投資家を取り上げてみれば、機関投資家にとってのインテグレーションの課題が見えてくる。ESG運用部門を設立するという対策は当初は妥当するだろう。しかしながら、将来的にほとんどの投資先企業がESG指向になることが考えられ、しかもESGは多元多岐なので、ESG部門と非ESG部門の並立では部門乱立になる。複雑化によって管理職や運用会議件数の増加が起こる。それゆえ、ESGと非ESGを集約して統合する必要性が早晩生じるのである。