金融機関の取り組み2──三井住友銀行
予測に基づく未来の資金管理
複雑化する資金管理ニーズ、買収後の企業統治もテーマに
日本企業の海外進出とひと口に言っても、その進出先や進出した時期、あるいは企業が展開するビジネスによって資金管理のニーズは異なる。とくに、近年では海外における資金管理方法の多様化が加速しているという。三井住友銀行のトランザクション・ビジネス本部グローバル決済業務部長、渋谷愛郎氏が現状を説明する。
「大枠では、欧米とアジアで事情が大きく異なる。先進国は日本企業にとって輸出先だが、アジアは生産と消費の両方の拠点であり、日本とアジアとの資金の流れは先進国より複雑になりがちだ。また、早くから日本企業が進出した中国では近年は進出が一段落した一方で、インドには毎年150社ほどの日本企業が進出している。それぞれの地域で求められるサービスやテクノロジーは異なり、その内容も目まぐるしく変化する。CMSを提供する金融機関は、ニーズの多様性や変化に応えることが求められる」
日本企業が海外企業を買収した後の統合プロセスへの問題意識も、GCMを導入するきっかけとなっているようだ。「買収先企業の財務について、本社はあまり積極的に介入しないことが多かった。ところが、最近はガバナンスの強化やROE(自己資本利益率)を意識した効率的な経営を求められる傾向が強まり、買収先企業の資金をコントロールしたい、システムで管理したいというニーズが高まっている」(渋谷氏)
サプライヤーファイナンスの世界的企業に出資
拡散するCMSへのニーズに対して、三井住友銀行は組織力で応える。アジアは上海に現地法人を構え、上海にはGCMおよび関連サービスに携わる30人ほどのスタッフが常駐する。中国と並んでアジアの統括拠点が多く置かれるシンガポールでは40人体制でサービスを展開する。さらに同行はその他のアジア・パシフィック地域、欧米などを幅広くカバーしている。
三井住友銀行が展開しているグローバル財務管理システムが「SMAR&TS Treasury」だ。このシステムの強みは、売上や支払いの予想と連動した高度な資金管理が可能なこと。
「このシステムでは、例えばフランス本社レベルでフランス国内の資金管理ができ、さらに欧州統括レベルでフランス本社を含む欧州の各拠点の資金管理ができるといったように、異なるレイヤーで資金の動きを見ることができる。さらに、売上や支払いや資金回収の予想をシステムに入れれば、どの通貨をどこの拠点に移すのが有利かというような、将来の効率的な資金管理の予測も可能となる。このようなシステムを扱う銀行では、邦銀では当行だけだ」(渋谷氏)
同行はサービスやシステムの強化にも余念がない。2015年度のシステム開発予算を大幅に増やすほか、2014年にはロンドンに本社を持つノンバンクのオービアン社に出資している。「サプライヤーファイナンスの分野では世界でトップクラスの実績があり、同社のサービスを当行とは別メニューで提供している。サプライヤーファイナンス系の企業と資本業務提携するのは邦銀としてはおそらく初めての事例だ」と渋谷氏は説明する。
J-MONEYのアンケートで、CMSを提供する金融機関に対して「コンサルティングを強化してほしい」という要望があった。渋谷氏は「顧客に満足していただくにはプロダクトセールスだけでは不十分だと考えているので、話を聞くことを大切にしている」と答える。「大企業しか想定していないのでないか」という疑問には、「当行は事業規模の大小にかかわらず多くの実績がある。さまざまな企業に対して、それぞれの事業のステージに合わせた最適なサービスを提案したい」とのことだ。
三井住友銀行は2015年を「GCM元年」と位置付けて、GCMの機能と質、それを支える組織力の飽くなき向上を目指している。