味岡 桂三
東京きらぼしフィナンシャルグループ
取締役会長
味岡 桂三

ビル・ゲイツ氏が1994年に「銀行の機能は必要だが、銀行は必要か?」と発言して以来、四半世紀が経つ。足元は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済ショックに対して、銀行が金融仲介機能を積極的に発揮しプレゼンスを高めている点をみると、必要な存在として“善戦”しているとも言える。

一方で、歴史的な低金利環境の持続や、お客様ニーズの多様化、情報技術革新に伴う異業種も含めた競争激化を冷静に見据えると、銀行はその存在意義を問われる正念場を迎えていることも事実であろう。銀行が社会に必要な存在であり続けるためには、金融仲介機能を適切に発揮しつつ、変わらなければならない。

アフターコロナに向けて金融にも強い総合サービス業へ

東京圏に経営基盤を有する3つの銀行の合併を経て誕生した当社グループは、「金融にも強い総合サービス業」という将来像に向けて経営を進めている。

「金融にも強い」のは銀行を傘下に持つ会社としては当然ではあるが、コロナ禍での経済情勢を踏まえ、関係先とも協調して、融資による資金繰り支援に積極的に取り組んでいる。また、傘下のきらぼしキャピタルや関係先とも連携しつつ、お客様の事業再生・改革に向けての財務基盤強化を支援するための出資ファンドの設立・拡充など、金融仲介機能の一段の化を図っている。さらに、2020年8月に証券子会社(きらぼしライフデザイン証券)を開業し、お客様の幅広い金融サービスのニーズに応えられる体制を整えた。

この間、「総合サービス業」という点では、コンサルティング機能の強化を進めている。2017年4月に設立した傘下のきらぼしコンサルティングは70名を超える規模になった。事業承継、M&A(合併・買収)、ビジネスマッチング、アジアビジネスやIT・経営管理支援、アフターコロナに向けた事業改革など、企業経営でのコンサルニーズは一段と高まっている。今後も一層の体制強化を図る方針である。

金融仲介機能は社会に必要。DXの視点で金融事業を変革

競争環境激化の中で、「金融にも強い総合サービス業」を発展させていくためには、金融部門の体制・業務・インフラ面を抜本的に変革していくことも求められる。

当社グループは、傘下銀行の合併効果の最大限の具現化を図るため、店舗ネットワークの再構築、次世代業務への移行、人員の適材適所の再配置などを進めているが、さらに先を見据えた対応も重要である。コロナ禍もあり社会のデジタル化が加速する中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)の視点を踏まえた金融部門の抜本的な事業変革も必要である。ブレット・キング氏が描く「BANK 4.0」の世界は、未来の小説ではない。

デジタル対応では、既に傘下のきらぼしテックが、独自のサービスである「前給」(従業員が働いた範囲内で給料日前にお金を受け取れるサービス)とデジタルウォレット機能と融合させたスマホ向けプリ(“ララQ”)を開発しており、2020年度中に新サービスを開始する予定である。

また、DXの視点から、2021年度中を目処に新たにデジタルバンクを開業すべく準備を進めている。先進的なクラウドシステムによる開発・運用の効率化、コスト抑制を図りつつ、積極的・スピーディーなAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)連携により、金融・非金融を問わないシームレスな総合サービスを展開し、客様との新たな共通価値の創造に取り組んでいきたい。既存の銀行の企業価値向上にも配意しながら、新しい金融事業への変革を着実に進め、グループ経営を進化させていく方針である。

新型コロナウイルスの感染拡大は、新たな産業革命の萌芽に繋がるのかもしれないが、金融仲介機能やコンサル機能が社会で不要になることはあり得ない。お客様に寄り添い、様々な課題への対応を専門的な立場からサポートし、解決に貢献できる“人間力”あるコンサル機能の強化と、業務・インフラ面の徹底的なデジタル化による金融部門の事業変革が、銀行が今後も社会に必要とされるための鍵であろう。