日本や中国の脱炭素化宣言、そして米国バイデン氏の大統領選当選によって世界中で勢いづくESG(環境・社会・企業統治)投資。だが、そのパフォーマンスに対する期待の根拠は金融業界でも確固としていない。アカデミックにおける研究の最前線について聞いた。
積極的な姿勢が期待される。企業に投資して改善を促す
各国で促進を促す政策目標が相次いで掲げられるなど、世界的に注目を集めるESG(環境・社会・企業統治)だが、金融業界でも同分野の存在感が増している。いまや機関投資家は、「責任ある投資行動」を求めるPRI(責任投資原則)署名やスチュワードシップ・コードの受け入れ表明をしなければビジネスが制限される時代になってきたからだ。しかしこうした“義務感” からの関心だけでなく、ESG投資はそれ自体のパフォーマンスの可能性から、企業年金や公的年金を中心に関心を集めている。
機関投資家にとって、同投資が本当にほかの投資先やアセットクラスと比べてリターン獲得に優位性を持つのか否かは重要だ。しかし、同投資のデータの取りづらさや歴史の浅さなどから、そのパフォーマンスについて確固たるエビデンスを得るに至っていない。「アカデミックの分野ではESG投資のパフォーマンスを分析した研究は世界で2000以上あるが、投資リターンに対してポジティブな影響を示唆した研究が6割程度で、そのほかにもネガティブ、中立の立場が混在しているのが現状」(図表1)。こう説明するのは、2020年10月に出版されたESG投資のパフォーマンスの理論面や実証面の研究をまとめた『ESG投資とパフォーマンス』(金融財政事情研究会)の著者で、前東京大学 特任教授(現 金融庁)の湯山智教氏だ。
そもそも、ESG投資はどのようにパフォーマンスを発揮すると考えられているのだろうか。有力な考え方として湯山氏が挙げるのが、「ESGを考慮することで企業がステークホルダーとの関係を向上させ、リスク低減効果が生まれるという仮説」だ(図表2)。企業はESG活動を通じて、顧客や従業員だけでなく、株主や銀行などの満足度を向上させることで、より効果的な契約関係の成立などが見込める。これは企業のさらなる成長やリスク低減に貢献するので、結果として投資家が求めるリスク・プレミアムも低下し、資本コストの低下につながって投資先企業の企業価値向上が期待できるというロジックだ。「実際に実証分析でも、ESG投資先として選ばれている企業は相対的に資本コストが低いことを示唆するものが多い」(湯山氏)
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