グロースとバリューの収益率格差拡大

大浦 裕一郎
ラッセル・インベストメント
コンサルティング部
コンサルタント
大浦 裕一郎

「分断」という言葉が現代社会を形容する一つのキーワードになっているが、株式投資の分野でもなかなか埋まらない溝がある。それは、グロース(成長株式)運用戦略とバリュー(割安株式)運用戦略の運用実績格差拡大で、企業年金の株式投資における大きな悩みの一つになっている。過去10年間のバリュー指数、グロース指数の収益率格差は先進国株式で年率5.5%に上る*。

長引く実績格差から、年金運用担当者の中で「なぜベンチマーク対比で劣後が続いているバリュー運用戦略に多額の報酬を支払わねばならないのか」という議論に陥ることや、定量的な評価基準でバリュー運用戦略が解約候補になることが起こりがちだ。
* MSCI World Growth指数とMSCI World Value指数の格差(2020年11月末時点)

評価の対象は運用機関の銘柄選択能力

株式市場には、特定のスタイルやファクターが継続して奏功する環境が存在する。下図の通りグロース株式指数の優位性は必ずしも利益成長に伴うものではなく、バリュエーション(PER)上昇が寄与する部分も大きい。

グロースとバリューの極端な格差はITバブル後のように解消するのか。投資家にとっては非常に悩ましいポイントだが、実際特定のシナリオを描き出すのは難しいと言えるだろう。コロナウイルスによる生活様式の変化からインフレや金利推移といったマクロ経済まで考慮しなければならない前提は多岐にわたる。

投資家として重要なのは、ポートフォリオ構築においてはスタイルやファクターの分散の効いた運用機関構成を維持すること、個別運用戦略の評価においてはスタイルやファクターの影響を除いた運用機関の銘柄選択能力を評価することである。現在のように極端なスタイル間格差が生まれている環境では、同スタイルの戦略間比較を行うユニバース比較など個々の戦略に応じた評価が一層意味を持つ。

同スタイル内分散の徹底余地

同じスタイルに分類される戦略であっても、その特性を細かく把握することで、より分散の効くポートフォリオを構築できる可能性がある。

例えば、グロース運用に分類される戦略でも、高い利益成長を見込む銘柄を選定する戦略か、安定成長が認められる銘柄を選定する戦略かで運用実績格差は確認される。バリュー運用でも、クオリティを重視して銘柄選択を行う戦略はディープバリュー戦略より運用実績が相対的に優位である場合が多い。過去の運用実績に依存してポートフォリオを構築すると、結果的に類似した戦略が採用されやすい。採用戦略が多い場合は、運用戦略の特性に重複がないか、運用プロセスなどの確認が有効だろう。

ポートフォリオ全体で意図しないファクターの偏りが生じていないか把握することも肝要だ。

例えば、株式ポートフォリオのベータを引き下げる目的で最小分散戦略など低ボラティリティ戦略の導入が進んできた。最小分散戦略は、近年他方で注目されてきたクオリティやモメンタムと正相関性がみられる。位置付けや名称の異なる戦略でも実は類似したリスクをとっていないか注意しなければならない。

バリューインデックス

グロースインデックス
2020年12月末時点。米ドルベース。米国大型グロース・インデックスはRussell 1000 Growth Index、米国大型バリュー・インデックスはRussell 1000 Value Index。上記は過去の実績であり、将来の投資収益等の示唆あるいは保証をするものではなく、またその結果の確実性を表明するものではありません。インデックスは資産運用管理の対象とはなりません。またインデックス自体は、直接投資の対象となるものではありません。インデックスには運用報酬がかかりません。

出所:Thomson Reuters Datastreamのデータをもとにラッセル・インベストメント作成
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