2015年1月20日、マニュライフ・アセット・マネジメントのチーフ・エコノミストとして来日したミーガン・グリーン氏に、グローバル経済の行方などを聞いた。

ミーガン・グリーン氏
マニュライフ・アセット・マネジメント
マネージング・ディレクター
チーフ・エコノミスト
ミーガン・グリーン

御社のレポートによると、2015年のグローバル経済は米国をけん引役に2.5%程度の成長率になると見込んでいる。米国がけん引役になると考える理由は。

グリーン 1つには金融危機後、いち早くストレステスト(資産査定)と資本注入に踏み切り、大手銀行が財務の建て直しを図ったことが挙げられる。他国に先駆けて金融システムが正常化したことで多くの企業が勢いを取り戻した。

家計債務の縮小も大きい。米国の家計債務は2008年に対GDP(国内総生産)比率で約95%だったが、2014年には80%程度まで低下した。それに伴って個人消費が拡大し、経済活性化に貢献している。

反対に米国経済の不安材料は。

グリーン 日本と欧州のデフレだ。米国は引き締め政策、その他の主要国は緩和政策という真逆の金融政策を行っているため、ドル高傾向にある。米国の輸出競争力が低下する一方、世界に蔓延するデフレプレッシャーを輸入してしまう恐れがある。

2014年の中間選挙によって共和党が上下両院で多数派となり、民主党のオバマ大統領との対立によって政治的空白が生じる危惧もわずかながらある。

米国の利上げ時期はいつ頃と見るか。

グリーン 2015年半ばという予想が多いが、私は2015年の年末、あるいは2016年になると思う。利上げ後には追加のQE(量的緩和)も十分にありえる。

なぜならFRB(米連邦準備理事会)のイエレン議長は労働経済学が専門であり、賃金動向を注視しているからだ。失業率は2008年の水準まで下がったものの、求人は低賃金職が大半を占めており、賃金を押し上げる効果は望めそうもない。賃金状況がもう少し改善されなければ、FRBも重い腰を上げないだろう。

デフレ化が世界に広がっている背景は。

グリーン デフレプレッシャーの要因は2つある。まず世界的な労働力の供給過剰だ。今後も中国やアフリカから新規労働者の大幅な増加が見込まれることから、労働力の供給過剰状態はしばらく続く。原油も供給過剰にあるが、いまのところ消費者や企業にはプラスになっている。

さらに需要喚起が十分でないこと。日銀とECB(欧州中央銀行)はともに市場流動性の強化を進めているが、借り手市場にそれほどの需要がないため、銀行貸し出しは伸び悩んでいる。

日本であれば大きな構造改革を実行しない限り、向こう5年間の経済成長率は1%程度の低空飛行を続けるだろう。欧州もデフレ回避を図っているが、量的緩和に踏み切ったとしてもデフレ化は避けられないと思う。

アベノミクスの第3の矢「成長戦略」のなかには、岩盤規制撤廃などの構造改革が盛り込まれている。

グリーン アベノミクスがスタートして3年目だが、効果が期待できそうな主な政策は法人税の引き下げ程度しかない。しかし、法人税引き下げだけでは日本経済が立ち直るとは思えず、第3の矢の成否については懐疑的な見方をしている。

ロシアや中国の見通しはどうか。

グリーン 原油安や経済制裁によってロシアのGDPは急激に落ち込んでいるが、それほど深刻な問題にはならないだろう。むしろロシアの天然ガスに依存しているドイツなどの国々にとって、原油安が恵みの雨になったことの方が大きい。

中国には不動産バブルとシャドーバンキングという2つの懸念材料があるが、いずれもすでに政府が手を打っている。中国政府のバランスシートは健全であり、救済できるだけの余力もある。短期的には高い経済成長を維持するだろう。

2015年の成長国として最も注目しているのがインドだ。景気循環上も拡張局面に差しかかっており、2014年に誕生したモディ首相の手腕にも期待できる。改革への期待感から国民からも絶大な人気を誇っている。