預貸率低下の背景に預金の急増

高田 創
岡三証券
グローバル・リサーチ・センター
理事長
高田 創

コロナショックを契機に貸出しが増加している。一方、預金の伸びがそれ以上に拡大しているのが実情だ。貸出しの増加は、売上げの減少に伴う赤字補填の面に加え、今後生じうる資金繰りに対する予備的な資金ニーズも大きい。大手企業はコミットメントラインの拡大で対応するが、安全を期して事前に資金も借りているだけに、貸出し増加と同時に預金が積み上がる構造になりやすい。

加えて、一人一律10万円で配られた支給金をはじめ、コロナショックへの対策費用も、結局、預金として積み上げられやすい。赤字補填のコロナ緊急融資はいずれピークを超えると展望されるが、コロナショックが長引くなかで支援対応や金融緩和基調が続くことで預金の伸びは高水準で続くと展望される。その結果、預金の伸びほどは貸出しが伸びず、預貸率は低下しやすいだろう。

預貸ギャップ拡大で運用圧力は拡大へ

以上のような預貸動向に伴い、以下の図表にあるように預貸ギャップが拡大している。その結果、預金取扱機関では余裕資金の拡大から有価証券運用への依存が生じやすい。預貸ギャップ拡大を有価証券運用が埋める構造が当面の日本の債券市場における金利上昇の抑制要因となり、さらに、多様なリスクテイクにも向かう状況にある。もとより、日本の債券市場においてバブル崩壊後、不良債権処理後の貸出資産の代替として国債保有が増加し、日本国債投資が資産運用の「主食(おコメ)」として位置付けられてきた。今日のようなマイナス金利も含めた「金利水没」のなかでは、十分に長短金利差を享受できず、債券投資が「主食(おコメ)」のような位置付けにはなりにくいが、「金利水没」に至っていない超長期分野への着実な運用圧力につながると考えられる。

【図表】日本の銀行の預貸ギャップ推移

日本の銀行の預貸ギャップ推移
出所:日本銀行「貸出・預金動向」、直近は20年8月

世界的な預貸率の低下

日本では金融危機が生じる1990年代後半まで、都市銀行の預貸率は100%を超えていたが、その後のバランスシート調整に伴う貸出し資産の償却により預貸率が50%台まで大幅に低下した。同様に、米国においても大手米銀の預貸率が今や60%程度まで低下している。2000年代のリーマンショックなどの金融危機前には100%を超えていたこととは大きな違いだ。日米銀行の預貸率の低下は、金融機関にとって資金調達を中心とした安全性の目安になるものである。バブル崩壊後の邦銀やリーマンショック後の米銀の問題は、多分に預貸率が100%を超えたなかでの資金繰り問題にあったと考えられる。一方、今日、日本だけでなく、米銀も預貸率が100%を大幅に下回る水準まで低下しており、今年生じた新たなコロナショックでも日米の銀行問題が生じにくい状況にある。

信用コスト増加で運用圧力は高まるが期待利回りは低下に

以上の状況は米銀の日本化現象と考えることもできる。こうした状況は米銀にとっては有価証券運用の必要性が高まることを意味するものである。世界的な預貸率の低下と運用圧力が債券市場への資金流入につながり、金利上昇を抑制することになるだろう。同時に運用難の中で株式や不動産市場への資金流入にもつながると考えられる。

今日、多くの日本の金融機関にとって、急に伸びた緊急融資は、「コロナ7業種」(陸運、飲食、宿泊、生活関連、小売、娯楽、医療福祉)を中心に信用コストの増加につながることが確実視される。その結果、ポートフォリオ運用上、融資のリスク勘案後の収益性は有価証券運用を下回る可能性が高い。特に、「コロナ7業種」での信用コスト上昇が見込まれる地域金融機関ほど有価証券運用への相対的な期待が高まりやすいと考えられる。一方、期待利回りの低下が生じやすいだけに、下期や2021年を展望すると運用のあり方そのものが根本的に問われる状況だ。

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