新型コロナウイルスの感染爆発やかつてのリーマン・ショックなど、起こる確率は極めて低いが、発生時には金融市場全体に甚大な影響をおよぼす「テールリスク」。年金基金や金融機関などの機関投資家の間では、長らく続いたゴルディロックス(適温)相場の影響で、テールリスクに対する危機感が薄れていたことは否めない。新型コロナウイルスのパンデミックによる地球規模の経済・社会の混乱を目の当たりにした今、テールリスクに備えた運用について改めて考える必要があるだろう。有識者に話を聞いた。

歪度と尖度の概念を加えて「1%のリスク」を理解する

テールリスクの発生は、長年金融市場の参加者を悩ませてきた。しかし、2008年に起きたリーマン・ショックの際には市場の大混乱に乗じて莫大な収益を上げたヘッジファンドが登場し、大きな注目を集めた。テールリスクに対するヘッジファンドの行動には、稀に発生する巨大な損失に対応するためのヒントがあるだろうか。

「リーマン・ショックや、2020年3月のコロナショックなど、ショック局面で大きなリターンを上げるヘッジファンド戦略は、主にオプション取引でのプットオプションや、信用リスクを取引するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)だ。相場が下落する兆候をいち早くとらえることで、大きなリターンを生む機会を得ることができる。これら『ブラックスワンファンド』のオプション・プレミアムは保険料と割り切るべきだ」。こう説明するのは、金融工学を専門とし、ヘッジファンド戦略の著書もある近畿大学 経営学部 教授の渡辺泰明氏だ。

渡辺 泰明氏
近畿大学
経営学部 教授
渡辺 泰明

「昨今はアルゴリズムを用いたHFT(高頻度取引)の拡大などで、市場全体が賢くなった。投資家の足並みが揃いやすく、テールリスク発生時の下落幅も大きくなるのでチャンスは増す。だがその分、抜きんでるためには他の参加者が注目していない部分に着目し、いち早く『ブラックスワン』をとらえなくてはいけない。有名なVIX指数(恐怖指数)やCBOE(シカゴ・オプション取引所)が発表するSKEW指数、EPU指数(経済政策不確実性指数)などが先行指標として参考になるだろう」

リスクヘッジの観点ではどうか。渡辺氏によれば、ヘッジファンドに限らず、金融市場全体でテールリスクは放置されてきたという。現代のリスク管理で広く用いられるバリュー・アット・リスク(VAR=最大予想損失額)でも、99%のリスクは把握可能だが、テールリスクのような「残り1%」のリスクは捉えることができない。「既存手法の限界を補強するには、数値化できるリスクはストレステストやシナリオ分析で大まかな被害予想を算出し、数値化できない部分は、信頼できる有識者の意見を聞くなどしてリスクを絞り込み、対策を取るしかない」と渡辺氏は語る。「実際、今回のコロナショックも、直近発表された多くの学術論文や著名人の講演で世界的パンデミック発生が警告されていたこともあり、『ホワイトスワン=予想可能なショック』だったと主張する声もある」

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