米国によるイラン攻撃によって世界経済は第三次石油危機の崖っぷちに立っている。日本経済がハイパーインフレに陥った場合、ドル円相場は1ドル=200円に向けて暴騰するであろう。一方、原油価格の急騰とプライベートクレジット危機の同時発生は、「質への逃避」からドル円相場の大暴落につながる可能性もある。投資家には、ドル円相場のダブル・ワンタッチ・バイナリ―購入が推奨される。

  • 米国のシェール革命と「武力による秩序」への転換
  • 円暴落と日本のハイパーインフレの懸念が高まる
  • 原油急騰とクレジット危機はバブル崩壊の前兆
  • AIを超えるプライベートクレジットの崩壊リスク

米国のシェール革命と「武力による秩序」への転換

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

金融市場を席巻している地経学的リスクの中心にあるのは米中対立である。君臨する大国と台頭する大国間の摩擦は歴史上繰り返されてきた。トランプ政権は、2017年以降、輸入関税による中国経済の弱体化を目論んだ。これに対して、中国はレアアースの輸出制限で対抗したため、同政権は、2025年にドンロー主義(トランプ版モンロー主義)を採用し、「武力による秩序」による中国封じ込めに転換した。

その背景には、シェール革命の存在が見逃せない。2005年には30京BTU(英国熱量単位)のエネルギー純輸入国であった米国は、シェール革命を経て、2024年には9京BTUのエネルギー純輸出国となった。すなわち、現在の米国ではエネルギー価格上昇による所得の海外流出は起きない。一方、同じく2024年の中国のエネルギー純輸入は40京BTUまで急増した。原油インバランスも、同年の米国の日量1百万バレルの出超に対し、中国は同12百万バレルの入超である。

2026年初頭、米国は中国の主要原油供給源であるベネズエラとイランを立て続けに攻撃した。事実上のホルムズ海峡閉鎖による原油の調達懸念と原油価格の高騰は、中国経済のみならず、原油を輸入に頼るEU(欧州連合、日量マイナス52百万バレル)と日本(同マイナス16百万バレル)の経済を直撃している一方、原油純輸出国ロシア(同プラス7百万バレル)を利する結果となった(カッコ内は2024年の原油バランス)。

グリーンランドの領有権をめぐり対立する米欧関係はいっそう悪化する懸念が強まっている。これに対して、中国に隣接し、米国を唯一の同盟国とする日本には多くの選択肢が見当たらない。

円暴落と日本のハイパーインフレの懸念が高まる

1973年の第一次石油危機によって日本にもたらされた狂乱物価の背景には、日本列島改造論による放漫財政とニクソンショック後の平価維持のために実施された非不胎化介入から生んだ過剰流動性があった。日本はその反省から、金融引き締めと緊縮財政、省エネ努力といった徹底的なインフレ封じ込め策に取り組むことになった。このため、1979年に発生した第二次石油危機に際して、日本経済は、欧米先進国に先んじて急回復を示し、1980年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれる抜群のパフォーマンスを発揮した。

しかし、1980年代を通じてほかの先進諸国を凌駕した日本のエネルギー効率は、現在、英国やEUに大きく水を開けられている(図表1)。

2013年以降の量的緩和による日銀による国債保有額とその結果生じた日本の過剰流動性は、先進国中群を抜いている。日本の財政ポジションはG7(先進7カ国)中最悪である。それにもかかわらず、高市内閣は積極財政を信条としている。すでに、ドル円相場は、購買力平価より78%も円安オーバーシュートとしている。第三次石油危機が日本経済を円安とハイパーインフレのスパイラルに陥れる公算が高まっているといえよう。筆者は、ドル円相場が中長期的に1ドル=200円を超えて引き続き上昇を続けるとみている。

【図表1】主要国のエネルギー効率(10億ドル/エクサジュール)
主要国のエネルギー効率(10億ドル/エクサジュール)
注:GDP(購買力平価ベース)/1次エネルギー消費量
出所:Energy Institute (EI)等

第二次世界大戦中の軍事費ねん出を目的とする国債引き受けから生じた戦後のハイパーインフレや、平成金融不況の契機となった積極的なバブル潰しのための連続利上げなど、日本経済史における日銀の汚点は少なくない。今般の日銀による再推計では、日本の需給ギャップは、2014年以降、新型コロナウイルス禍の期間を除き一貫してプラスであったことが判明した。

日銀には政府とのアコード(共同声明)を破棄し、利上げと量的引き締め(QE)によって、日本経済を魔の淵から救うことが望まれる。はたして日銀は、20世紀後半のブンデスバンク(ドイツ連銀)のように国民の絶対的な信頼を勝ち得るだろうか。

原油急騰とクレジット危機はバブル崩壊の前兆

一方、原油価格の高騰と忍び寄るプライベートクレジット(ノンバンク融資)危機によって、パンデミック後に発生した金融バブル(ポスト・パンデミック・ファイナンシャル・バブル)の崩壊が危ぶまれている。現在の状況は、2008年の世界金融危機前夜、つまり原油価格が1バレル=150ドル近辺まで上昇し、サブプライムローン危機が表面化したときの状況と酷似している。

ポスト・パンデミック・ファイナンシャル・バブルを当初主導したのは原油であった。コロナ禍の終息とパンデミック中の財政支出と量的緩和によって上昇したS&P500とNASDAQが、2021年初めに135と161で頭打ちとなる中、原油価格(TWI)は、インフレ懸念やロシアのウクライナ侵攻から2022年初め274まで上昇した(2020年3月=100とした場合)。その後、インフレ懸念の鎮静化とともに主役交代が起こり、原油価格が下落に転じる一方、AI革命と国際情勢の不安定化によって株と金が金融バブルの主導役となった。

2026年2月時点で、S&P500とNASDAQはそれぞれ187 と212、金価格は236まで上昇した一方、TWIは159 まで下落していた。加えて、貿易加重平均で見たドルは安定推移するなか、円相場対ドルで62まで下落している(2020年3月=100とした場合)。

キャリートレードによって調達された円資金が、原油や金、株式の上昇を支えたことがうかがえる(インフレ調整ベース、図表2)。

【図表2】ポスト・パンデミック・ファイナンシャル・バブル(インフレ調整後、2020年3月=100)
ポスト・パンデミック・ファイナンシャル・バブル
出所:米国連邦準備制度など

AIを超えるプライベートクレジットの崩壊リスク

金融規制当局は2008年以降に銀行への規制を強化する一方、伝統的な金融機関以外の貸し手、いわゆるノンバンクは放置されてきた。これによりプライベートクレジット市場は急成長し、プライベートクレジットファンドによるソフトウエア企業への融資がこれまでのAIバブルの膨張を支えるかたちとなってきた。規制当局は、プライベートクレジット市場の過熱を繰り返し警告するなか、顕著となってきた投資家によるプライベートクレジットからの資金の引き上げは、AIバブル崩壊を招く引く可能性が高い。さらに、英住宅ローン会社マーケット・ファイナンシャル・ソリューションズ(MFS)の最近の破綻が示しているように、リスクはAIの域を超えて広がろうとしている。

原油価格上昇が招来するインフレによって、主要国の長期金利が急上昇し、日米欧の中銀が金融引き締めを実施した場合、ポスト・パンデミック・ファイナンシャル・バブル崩壊の蓋然性はさらに高まるであろう。今回の問題は、2008年の世界金融危機に際して採られたような国際協調体制が望めないことである。

米中対立とドンロー主義、グリーンランドをめぐる欧米対立やウクライナ・イラン戦争……と広がりを見せる国際社会の分断と力による支配は、もはや不可逆的といえよう。ひとたび、ポスト・パンデミック・ファイナンシャル・バブルの崩壊が始まり、「質への逃避」によるデレバレッジが生じれば、株式や金、原油が大幅に下落し、円相場は急激に上昇する可能性がある。ここで留意すべきは、一般的に「質への逃避」の象徴とされる金も、投機の対象である限りは、下落リスクにさらされる可能性があることである。