金融規制は、大きな金融危機が起こるたびに法整備とその強化が図られた歴史がある。日本では1990年代後半の不良債権問題、グローバルでは2008年のリーマン・ショックが記憶に新しいだろう。ここ数年は前述ほどの大きな危機は生じていない一方、金融規制には新たな2つの課題が生じている。

  • リーマン・ショック後、増加した規制で従来の金融機関は対応に追われる
  • GAFAなどプラットフォーマーによる金融サービスは、データ収集が狙い
  • 金融サービスをベースにした規制への転換が必要

グローバル化する金融機関で現行の規制は疲弊を増大

一橋大学大学院
経営管理研究科
客員教授 佐々木 清隆先生
一橋大学大学院経営管理研究科客員教授 兼 グローバル金融規制研究フォーラム代表。1983年東京大学法学部卒業後大蔵省(現財務省)入省。OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)職員として3度、延べ10年近くの国際機関勤務を経て、金融庁検査局審議官、証券取引等監視委員会事務局長、公認会計士・監査審査会事務局長、金融庁総括審議官、総合政策局長を経て2019年に退官。銀行監督、証券市場監視、監査法人検査、コーポレートガバナンス等金融監督全体に幅広い経験を有する

金融のグローバル化はこの10年で急激に進み、同時に金融規制に関する課題も深刻化している。AI(人工知能)やFinTech(ファイナンス・テクノロジー)などあらゆるイノベーションにより、グローバルにおいてはGAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)、国内で言うと楽天などプラットフォーマーの台頭が目立つ。

中でも、GAFAをはじめ非金融業の企業が送金サービスなど従来の金融機関が行ってきた金融サービスを新たに提供する動向が目につく。Google PayやApple Pay、2019年に世界各国に強烈な印象を残した仮想通貨リブラの構想など、読者の皆さんもよくご存知であろう。

とはいえ、非金融業における金融規制のあり方が問われるだけでは話は終わらない。従来の金融機関に課されてきた金融規制は、ここまでグローバルおよびイノベーションが進んだ現状では、金融機関にとっては厳しい様子だ。以上、課題は山積みだが、ここでは一つずつ整理して処方箋(せん)としたい。

まずは、従来の金融機関における課題を掘り下げてみよう。グローバルでは2008年のリーマン・ショック後、新しい金融規制がいくつもつくられ、国際的な合意の下、執行されることとなった経緯がある。前述の規制は、金融危機が起こった後の対処にかかわる目的がほとんどだが、金融危機を未然に防ぐ取り組みも同等に重視されるようになった。

例えば、自社によるガバナンスの強化だ。監査委員会の設置や外部取締役会の選任など、強制力のある金融規制だけでなく、自律的に自社の監視を律する流れも充実してきている。

しかし、規制を含めた前述の取り組みに伴う副作用も認識されている。まず、ルールが複雑になりすぎた。リーマン・ショック後、あまりにも多くの規制が生み出され、規制間の矛盾が生じたり、がんじがらめな状態が散見される。金融機関側は、規制がつくられるたびに対応に追われ、コストや時間を奪われてしまい、いわゆる「コンプラ疲れ」が目立つ。

また国際的に規制の合意は成立したものの、執行の手法に各国で違いが出ているのも問題だ。その結果、グローバル化する金融機関では、国ごとの対応が追い付かない状態だ。

さらに、金融規制監督手法としての、ルールベースのアプローチとプリンシプル(原理原則)ベースのアプローチのバランスのとり方も、当局によってばらつきがある。日本では、規制分野に応じて、コーポレートガバナンス・コードのように、プリンシプルベースの手法を重視する傾向が強くなっているが、他方米国のように従来のルールベースを強化する国もある。

加えて、国や当局が規制で金融機関の動きを抑え込むのではなく、民間の市場参加者による自主規制が今後グローバル化する金融機関にとっては有効ではないかとの意見もある。

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