経済指標を読み解く 7月31日公表の6月鉱工業生産指数・出荷指数からわかる、4~6月期実質GDPや6月景気動向指数の動向―鉱工業生産指数、GDP、景気動向指数―
今年上半期の鉱工業生産指数は、不正問題による自動車工業の生産停止・再開の影響に翻弄され、一進一退
経済産業省が7月31日に発表した鉱工業生産指数・6月速報値の20年=100とした季節調整値は100.6で、前月比▲3.6%と2カ月ぶりに低下した。業種別にみると全15業種が前月比低下だった。今年2番目に大きい前月比の下落率である。業種別では、自動車が前月比▲8.9%低下した。普通乗用車や駆動伝導・操縦装置部品等が主な低下要因となっている。型式認証不正でトヨタ自動車やマツダなどが工場の稼働を一時停止し、新車生産が落ち込んだことが響いた。また、半導体製造装置などが含まれる生産用機械工業も、3月・4月に前月比で大きく伸びた反動減で前月比▲8.7%へ低下した。
鉱工業生産指数・鉱工業出荷指数から、8月15日に発表される4~6月期実質GDPや8月7日に発表される景気動向指数の一致CIを使った景気の基調判断がどうなるか、ある程度の方向性が予測できる。その前に、まず鉱工業生産指数の今年上半期の推移を振り返ってみたい。
2024年1月の鉱工業生産指数は98.0と12月の105.0から大きく低下した。前月比は▲6.7%と今年最大の下落率だった。2月は97.4だった。1月・2月は、ダイハツ工業の工場稼働停止などの影響を受けて自動車工業が低下したことなどから、全体として2か月連続で低下したが、3月は、工場稼働再開で自動車工業が上昇したことなどから、全体として上昇し101.7と今年の最高水準になった。
しかし、4月は、前月の大幅上昇の反動などを受けて、化学工業(除.無機・有機化学工業)や輸送機械工業(除.自動車工業)などの業種を中心に、全体として100.8まで低下した。
5月は、本格的に工場稼働再開し自動車工業が上昇したことなどから、全体として上昇し104.4になったが、6月は低下し100.6になったが、2月・3月の水準は上回った。自動車会社の不正問題に翻弄されるかたちで、今年の鉱工業生産指数などは、経産省の判断の言葉をかりれば「総じてみれば、生産は一進一退ながら弱含んでいる」という展開になっている。
前月比大幅低下月の第1位の1月と第2位の6月ではあるが、その月を含む四半期の前期比は真逆で、1~3月期は前期比▲5.2%、4~6月期は同+2.9%だった。
7月・8月は自動車を含む輸送機械工業は低下基調だが、半導体製造装置を含む生産用機械工業など多くの業種で上昇見込み。
鉱工業生産指数・6月速報値と同時に発表された製造工業生産予測指数の7月は前月比+6.5%の上昇だ。また、企業の生産計画から実績がしばしば下振れする傾向があることから、こうした影響も考慮した経産省の先行き試算値最頻値は同+4.0%の見込みで、90%の確率に収まる範囲は+2.7%~+5.4%だ。8月の製造工業生産予測指数・前月比は+0.7%で上昇が続く見通しだ。
業種別にみると、認証不正の影響で輸送機械工業の前月比・見通しは7月▲0.2%、8月▲3.0%と低下が続く見通しである。一方、生産用機械工業は、8月こそ前月比▲1.2%の低下見通しだが、その前の7月は同+18.1%の大幅上昇である。電子部品・デバイス工業は7月+18.0%、8月+2.7%と上昇が続く見通しである。半導体関連の需要は世界的に大きい。貿易統計の最新データである7月上旬分では、輸出の前年比増加に大きく寄与している3品目の中に半導体等電子部品、半導体等製造装置があることも、世界的需要の強さを示唆していよう。
先行きの鉱工業生産指数の7月を補正値最頻値前月比(+4.0%)、8月を製造工業予測指数前月比(+0.7%)、9月を前月比横這いで延長した試算値を求めると、7~9月期の前期比は+3.1%になり、4~6月期に続いて2四半期連続前期比増加となることが見込まれる。但し、今後の自動車工業における工場稼働停止の影響や世界経済の動向などを注視する必要がある状況だ。
8月15日発表の4~6月期実質GDPは2四半期ぶりに増加か。個人消費は5四半期ぶりに前期比増加、設備投資、公共投資なども前期比増加か。
4~6月期第1次速報値では、実質GDP成長率は前期比+0.6%程度、前期比年率+2.4%程度と、2四半期ぶりに増加に転じると予測される。個人消費、設備投資、公共投資などが前期比増加になるとみられる。
実質の個人消費は前期比+0.3%程度と5四半期ぶりの増加になろう。
供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の4~6月期・前期比は、1~3月期に一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響で大きく落ち込んだ乗用車販売が持ち直したことなどから+8.9%の大幅増加になった。同じく供給サイドの関連データである4~6月期・非耐久消費財出荷指数は同+0.8%の増加だ。参考までに、名目ベースの商業販売額指数・小売業の4~6月期・前期比は+1.8%の増加である。
一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の4~5月平均の対1~3月平均比は+0.2%の増加であり、乗用車販売台数の4~6月期・前期比は+14.7%の増加になっている。
家計最終消費支出の推移を様々な月次データによる時系列回帰モデルによって推測している総務省の総消費動向指数の4~5月平均の対1~3月平均比は▲0.1%の減少だ。また、財とサービスに関する各種の販売・供給統計の月次データから算出している日銀の実質消費活動指数(旅行収支調整済)の4~5月平均の対1~3月平均比は+0.7%である。
以上から総合的に考え、4~6月期第1次速報値の個人消費の前期比で+0.3%程度の増加になると予測する。
設備投資の供給サイドの関連データである資本財(除.輸送機械)出荷指数の4~6月期・前期比は+0.5%の増加、建設財・前期比は+1.8%だ。一方、特定サービス産業動態統計の「受注ソフトウェア」、「ゲームソフト」および「ソフトウェアプロダクツ(控除ゲームソフト)」の合計の4~5月平均の前年比は+1.8%で1~3月期の+5.6%より増加率が鈍化した。
以上の関連データの動きから、供給サイドから推計される4~6月期第1次速報値の実質設備投資は前期比+1.1%程度の増加になると予測する。
住宅投資は前期比+1.2%程度、民間在庫変動の前期比寄与度は0.0%程度と予測する。民需全体の前期比寄与度は+0.5%程度になるとみる。
政府消費は前期比+0.2%程度、公共投資は、3四半期連続で前期比減少だった反動で、4~6月期前期比は+5.0%程度の増加に転じると予測する。公的在庫変動の前期比寄与度は0.0%程度とみる。公需の前期比寄与度は+0.2%程度になるとみる。
実質輸出入の動向をみると、輸出の4~6月期・前期比は+0.5%の増加になった。控除項目の輸入は同+1.4%の増加になっています。財のデータでみると4~6月期の外需(財)の前期比寄与度はマイナスになると思われる。一方、景気を把握する新しい指数一致指数に採用されている実質サービス支出は4~5月平均の対1~3月平均比は+4.4%の増加だ。
財・サービスを合わせた4~6月期・GDPの実質輸出は+1.5%程度の増加、控除項目の輸入は同+1.9%の増加、4~6月期の外需の前期比寄与度は▲0.1%程度になると予測する。
8月7日公表の6月速報値では6月景気動向指数・一致CIは4カ月ぶり前月差下降。基調判断は「下げ止まり」継続か。
景気動向指数6月速報値の一致CIは前月差▲2.8程度の下降を予測する。前月差下降は4カ月ぶりだ。
一致系列で、速報値からデータが利用可能な8系列では、商業販売額指数・小売業、輸出数量指数の2系列が前月差寄与度プラスになり、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の6系列が前月差寄与度マイナスになろう。
景気動向指数の景気の基調判断は、一致CIに採用されている生産関連指標の乱高下と言ってもいい一進一退の動きに翻弄され、5月で、景気後退の動きが下げ止まっている可能性が高いことを示す「下げ止まり」になってしまった。
「下げ止まり」から直接、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」に上方修正されることはできず、「上方への局面変化」を通過しなくてはならない。「7カ月後方移動平均(前月差)の符号がプラスに変化し、プラス幅(1カ月、2カ月または3カ月の累積)が1標準偏差分以上、かつ、当月の前月差の符号がプラス」になることが条件だ。
6月一致CIが予測通りだとすると、前月差がマイナスで、また7カ月後方移動平均前月差も▲0.07程度とマイナスになるため、「上方への局面変化」に上方修正される条件を満たさない。
また、6月一致CI が景気後退の可能性が高い「悪化」になることもない。「悪化」の条件は、「原則として3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が下降、かつ当月の前月差の符号がマイナスになること」だ。予測通りだと3カ月後方移動平均の前月差は+0.03程度と3カ月連続でプラスになるからだ。
したがって、6月景気動向指数・速報値での景気の基調判断は2カ月連続で「下げ止まり」となる見込みである。