木村 貴人

木村 貴人
三菱UFJ信託銀行株式会社
運用商品開発部 
債券・ヘッジファンド運用課
シニアプロダクトスペシャリスト
2019年、三菱UFJ信託銀行入社。ヘッジファンドのソーシング・デューディリジェンス業務を統括。それ以前は、みずほグローバルオルナティブインベストメンツ(現アセットマネジメントOneオルタナティブインベストメンツ)、農中信託銀行にてヘッジファンドを含む外部運用ファンドの評価、選定、モニタリング業務に従事。横浜国立大学経済学部卒業、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了

Ⅰ. はじめに

引き続き世界のヘッジファンド運用資産額は増加基調にあるが、複数の運用者・戦略を1つのファンドに束ねてポートフォリオを構築するマルチ・マネージャー型ファンドの成長が特に顕著である。本稿では、ヘッジファンド業界全体の動向、投資家の選好等のトレンドを考察するとともに、マルチ・マネージャー型ファンドに焦点を当て、その種類やストラクチャー、パフォーマンス等の分析のほかファンド選定のうえで留意すべき点について述べていく。

Ⅱ. ヘッジファンド業界動向と投資家の選好

1.マルチ・マネージャー型ファンドの成長

ヘッジファンド業界は、リターン獲得による時価増を主因として成長を続けており、図表1で示すように、運用資産残高は2010年から倍増している。とりわけ、マルチ・マネージャー型ファンドの成長が顕著であり、運用資産残高は2010年:1000億ドル未満から2022年:3000億ドル以上と大幅に増加している。この成長は特に2017年以降に顕著で、マルチ・マネージャー型ファンドの資産は約150%(年率:18.8%)増加した一方、ヘッジファンド業界全体の成長はわずか19%(年率:3.6%)に留まる。

図表1:運用資産残高の推移
図表1:運用資産残高の推移
出所:上段:HFR社2022年12月末までの数値、下段:Goldman Sachs社、2022年は11月末までの数値

この成長の違いは戦略レベルでも確認することができる。図表2の左側のグラフに示すように、マルチ戦略内で比較すると、マルチ・マネージャー型ファンドが急速に成長している。マルチ戦略全体は2017年以降で20%程度の増加である一方、マルチ・マネージャー型のマルチ戦略ファンドは2倍以上に増加している。

このマルチ・マネージャー型ファンドの成長のもう1つの特徴としては、ファンド規模ごとの成長率の差が挙げられる。マルチ・マネージャー型ファンドのカテゴリーは少数の非常に大規模なファンドによって支配されているが、これらのファンドの多くは近年、運用できる資金量(キャパシティ)の限界に達し始めている。図表2の右側のグラフが示すように、2017年以降、規模の上位5つのファンドは年率12.4%で成長しているものの、それ以外のファンドは毎年27.9%で成長している。これは、規模の大きいファンドのみがこのカテゴリーの成長を牽引していた2010年から2017年の傾向から大きく様変わりしていることを示している。

図表2:マルチ・マネージャー型ファンドの資産残高増加
図表2:マルチ・マネージャー型ファンドの資産残高増加
出所:Goldman Sachs社、2022年は11月末までの数値

2.マルチ・マネージャー型ファンドのリスクリターン特性

マルチ・マネージャー型ファンドの成長の主な要因として、優れたリスクリターン特性が挙げられるが、まずリターンについて、ヘッジファンド全体や伝統的資産の指数と比較する。図表3は年別リターンおよび2012年から2022年までの年率リターンである。

2012 年以降、マルチ・マネージャー型ファンドのリターンは、ヘッジファンド全体よりも年率約0.7%、株式60%/債券40%のポートフォリオよりも年率約2%上回っているが、世界株式と比較すると年率約2%下回っている。すなわち、リターンの絶対水準だけを見ても、良好ではあるものの、特筆すべきものではない。

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