為替市場にもある“美人投票”

唐鎌 大輔
みずほ銀行
金融市場部
チーフマーケット・エコノミスト
唐鎌 大輔

年初から新たな少額投資非課税制度(NISA)に伴う「家計の円売り」が円安を促しているというテーマが注目されている。この論調に対し、鈴木俊一財務相が「新しいNISAだけに変動要因を求めるということは困難」との見方を示したことも大きく報じられた。

こうした鈴木財務相の発言は正しい。筆者は新NISAに伴う「家計の円売り」規模について、本稿執筆時点で入手可能な情報に基づけば「7~9兆円」程度と試算するが、それは為替市場の潮流を決するほどの数字とは言えない。しかし、為替市場にとって重要なことは「皆がそう思っているかどうか」だ。ケインズが株式市場を美人投票に例えたのは有名な話だが、為替市場も同じだ。むしろ、ある面では株式市場よりも直情的な性質を備えた為替市場では「皆がそう思っているかどうか」は重要なポイントになる。

東日本大震災時の円高がまさに典型例だ。2011年3月11日の震災発生以降、本邦の損害保険会社が保険金支払いに備えるために外貨建て資産を売却し、円に戻すという憶測が拡がった。日本が「世界最大の対外純資産国」である以上、有事に直面した際、手元流動性を改善するために外貨建て資産を売却するという行動は想定されるものだ。「リスクオフの円買い」という認知もあり、「損保のレパトリ」も大きな抵抗感もなく為替市場で受け入れられ、実際に円は1ドル76円台まで急伸、円売り・ドル買い協調為替介入が実施される事態にまで至った。

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