このたび来日した、米国ブラックロックでiシェアーズ債券戦略チーム責任者を務めるマシュー・タッカー氏に、債券市場の動向と米国での債券ETFの活用事例について聞いた。(取材日:2015年7月21日)

マシュー・タッカー氏
ブラックロック(米国)
マネージング・ディレクター
iシェアーズ債券戦略チーム責任者
マシュー・タッカー氏

昨今の債券市場の動向は。

ここ6~7年ほどで、米国のほかラテンアメリカ、アジア、ヨーロッパなどで債券ETF(上場投資信託)を活用する機関投資家が増加している。背景には2008年9月に起きた金融危機をきっかけとした、資本市場の規制強化と流動性の低下がある。

バーゼルⅢをはじめとした各国の規制により、金融機関は流動性資本の見直しを迫られた。証券会社もこうした動きに対応するため、すでに発行されている債券の保有残高を減らしていった。取引所で取引を行う株式と異なり、債券は相対で取引を行う。そのため、証券会社の債券の保有額が削減されるということは、それだけ債券市場の流動性を低下させることにつながる。

だが、債券の流通量が減っている一方で、低金利環境の継続によって社債の新規発行額は増えている。社債の市場規模が拡大しているにも関わらず流動性が損なわれているという歪んだ市場環境のなか、保険会社や年金基金、ヘッジファンドなどの機関投資家は個別債券のほか、債券ETFも積極的に活用したポートフォリオを構築し始めている。

債券ETFを活用するメリットとは。

機動的な投資が行えることと、投資対象の明確さだろう。債券ETFは株式と同様、取引所で取引できるため実物債券と比較して流動性が高く、指数に連動するものが多いため、どんな債券に投資しているかの把握が容易だ。加えて、債券ETFは個別債券に比べて低コストで売買できる。

いま、市場では「低利回り環境下におけるインカム収入の獲得」と「米国の利上げ局面への対応」が大きな課題だ。こうした課題に対して債券ETFならば、ハイイールド債券に低コストで投資してより高い利回りをねらったり長期債を売却する一方で短期社債に投資するETFを保有して長期債の利上げに対する金利リスクを回避したりと、市場の変化に合わせた柔軟な運用ができる。

機関投資家はどう活用しているのか。

米国での事例だが、ある年金基金が米国の投資適格社債に迅速に投資したいと考えた結果、「iシェアーズiBoxx米ドル建て投資適格社債ETF(LQD)」を活用した。個別の債券であれば、執行まで通常、数週間から1カ月かかるが、債券ETFを活用することで、取引にかかる時間を大幅に縮小できた。その後、この年金基金は有望な銘柄が見つかったタイミングでETFを売却して個別債券へ投資する、いわばETFから個別債券へのシフトを進め、機動的な投資と柔軟な資産配分変更を同時に達成することができた。

このような投資手法は米国でも浸透してきており、ポートフォリオを急いで変更したいときなどにはとくに有効だ。債券ETFは2002年に登場して以来、さまざまな局面を経てきたが、市場に大きなストレスがかかった場面でも活発に売買されてきた。日本の機関投資家にとっても債券ETFは、個別債券の流動性を補完する投資対象として一考の価値があると思う。