キャリートレードによるドル高円安を終わらせる7つの契機
- ドル円相場は2024年6月に115円まで下落しよう
- 世界的なインフレの背景は主要国の放漫財政
- 財政赤字と景気拡大による米国の資金需要の増大
- 日本と中国からの資金流出が米国赤字を穴埋め
- ドル高円安相場を反転させる7つの契機
ドル円相場は2024年6月に115円まで下落しよう
筆者は、主要国の放漫財政に由来する「世界の安定的な不均衡」と円キャリトレードが生み出した2022年以降のドル円相場の上昇トレンドは、現在転機を迎えつつあると考えている。
ドル円相場は、2024年6月までに115円まで下落する可能性がある。市場参加者には早急な円キャリートレードからの撤退が求められる。
世界的なインフレの背景は主要国の放漫財政
2021年以降の世界的なインフレ率上昇の主因は、パンデミックを契機に定着した主要国における放漫財政と考えることができる。主要国における一般政府の財政赤字(GDP比)は、2020年に急激に拡大した後、2023年においてもユーロ圏の3.5%を除くと米国8.2%、日本5.6%、中国7.1%と大幅に悪化した状態が継続するとみられる(IMF(国際通貨基金)のWECO(世界経済見通し)2023年10月)。
放漫財政が継続する中、主要国のコアCPI(食品・エネルギーを除く消費者物価)は、米国6.5%(2022年3月)、ユーロ圏5.7%、英国7.1%(ともに2023年3月)まで上昇した。
財政赤字と景気拡大による米国の資金需要の増大
米国では、バイデノミクスによる財政赤字の拡大と堅調な景気による民間貯蓄の減少によって国債発行が増加した上、Fed(連邦準備制度)による量的引き締めと中国による米国債の継続的な売却によって、2023年10月には長期金利(10年物国債利回り)がほぼ5.0%まで上昇した。
2013年11月に1.31兆ドルに達した中国の米国債保有残高は、2023年8月には0.81兆ドルまで減少している。
日本と中国からの資金流出が米国赤字を穴埋め
2022年以降の米国の資金不足を安定的に穴埋めしたものは、円キャリートレードと中国からの資金流出である。日本では大幅な財政赤字の下でも、根強いデフレ圧力の中、日銀による国債購入が継続され、円キャリートレードを通じた潤沢な資金流出が米国の資金不足をファンナンスした。
また、中国も日本と同様の大幅な財政赤字の下でも、景気減速によって資金余剰が増加し、さらに不動産バブル崩壊と東西分断を嫌気した資金流出が米国の資金不足の穴埋めに一役買った。以上が放漫財政によって生じた世界の不均衡が円キャリートレードよって安定化され、ドル円相場が大幅に上昇したメカニズムである。
ドル高円安相場を反転させる7つの契機
このようにしてこれまで辛うじて維持されてきた「世界の安定的な不均衡」もいよいよ終わりを迎えつつあると言えよう。米国の実質長期金利(10年物インフレ連動債利回り)は、2023年6月下旬の1.5%から10月下旬には2.5%まで上昇したが、これは米国債のリスクプレミアムが上昇した結果とみることができる。換言すれば、米国の実質長期金利の上昇は、ドル円相場の反転を示唆している。ここでは、ドル高円安相場を反転させる7つの契機に言及する。
第一に、欧米のインフレは既にピークアウトした一方、わが国のインフレは上昇基調を維持している。欧米のコアCPIは、上述のピークから、米国4.1%、英国6.1%(ともに2023年9月)、ユーロ圏4.2%(2023年10月)まで低下している。一方、日本東京都区部のコアCPIは、2023年10月に2.7%と既往ピークを更新している。今後、日本のインフレはさらに高まるであろう。
第二に、これを受けて、欧米中銀の利上げサイクルは終了したとみられる一方、日銀は、10月31日に事実上YCC(イールドカーブコントロール)を放棄し、早晩、マイナス金利解除、テーパリング、ゼロ金利解除と利上げ、量的引き締めへと移行していく公算が高い。この点で、金融市場は、同日の日銀による政策修正をミスリードしていると言えよう。日銀による日本国債の購入減少とその売却は、円キャリートレード等を通じた日本から米国への資金フローを逆流させることになりそうだ。
第三に、岸田政権が打ち出した所得減税や国防費の増大によって、日本の財政赤字は、今後さらに拡大する可能性が高い。そのような中、日銀が国債購入減少・売却に動けば、米国から日本への資金の逆流に拍車をかけよう。
第四に、もしわが国財務省が再びドル売り円買い介入を再開するとすれば、中国に加えて日本も米国債の売却キャンプに再参入することになり、米国から日本へ資金逆流にさらに貢献することになろう。
第五に、中国が2023年10月30~31日に開催した中央金融工作会議を契機に、本格的な景気浮揚と不良債権処理に乗り出すとすれば、中国の資金余剰は今後大幅に減少する公算が高い。
第六に、11月15日の習主席の6年ぶりの訪米によってデリスキングが進展するなら、中国からの資金流出に歯止めがかかり、中国の資金余剰の減少とともに、米国の資金不足のファイナンスに支障が出る可能性がある。
最後に、米国の実質長期金利のさらなる上昇によって米国の資産バブルが崩壊し、米国景気が後退すれば、Fedは金融政策の変更を、米財務省はドル高修正の政策採用を余儀なくされよう。