② 為替相場

日本の利上げは当面なし、金利差から円安期待

日本株の急落と同様、市場を震撼させたのが外国為替相場だ。3月17日に円が急騰。一時1ドル76円25銭まで上昇し、1995年4月19日の79円75銭の最高値を更新した。今回の震災後の円の急騰は1995年の阪神・淡路大震災後の動きと似ているが、阪神・淡路大震災直後はそれほど荒い動きは見せておらず、かつ79円75銭をつけたのは震災から3カ月後であった。

なぜ震災直後に円が急騰したのか。バークレイズ銀行東京支店のチーフFXストラテジスト、山本雅文氏はこう分析する。「第一に、投資家のリスク回避傾向が強まるとの思惑。第二に、保険金支払いのために保険会社がリパトリ(外貨資産売却)するのではないかとの思惑。第三に、日本の投資家が震災による損出をカバーするため、外貨資産を売却するとの思惑。こうした投機的な思惑から円が急騰したものの、実際にはこうした動きはなく、翌日(18日)にG7が円高阻止のための協調介入を迅速に行ったことにより、すぐに80円台の水準に戻った」

個人投資家の一部がFX(外国為替証拠金取引)などで損切りを余儀なくされたものの、震災後2週間における日本の投資家の対外投資は1.2兆円の買い越しだった。「保険会社には潤沢な円建て資産があり、外貨資産の為替ヘッジ率が高いことからリパトリしても円買いにはつながらない」(山本氏)

むしろこの震災の影響により、世界各国が利上げに動くなか、日本の利上げがさらに当面なくなったことで、金利差から考えると円安が進むとの予測が市場の大半を占めており、その後は円安傾向で推移している。

内外金利差拡大により、円キャリートレードが復活し、1ドル90円~ 100円になるとの予測もあるが、山本氏は「円安期待も行き過ぎではないか」と疑問を呈する。「米国が6月前に量的緩和の終了するのではないか、6月以降の利上げするのではないかといった議論は時期尚早ではないか。連邦公開市場委員会(FOMC)の多数派は量的緩和解除に高いハードルを設けている。日米金利差も3月最終週は米国10年債利回りが横ばいだったが、ドル円は3%超上昇している。アメリカの出口政策を巡る思惑に左右されやすい展開が続こうが、足許の対円でのドル高には行き過ぎ感がある」

さらに震災以外にも世界各地にさまざまなリスク要因があることも円安を抑制する可能性が高いという。「依然として、中東情勢、原発情勢、アジア景気減速懸念などリスク要因が残っていることから、投資家のリスク選好度が本回復したとは言い切れない。先行き不透明な情勢が続くとはいえ、1ドル80 ~ 85円で推移し、極端な円安にはならないのではないか」(山本氏)

足元の為替市場は、デリケートな展開が続きそうだ。例えば4月7日に東日本大震災以来の最大の余震が起きると、1ドル85円前半から84円台後半に急騰。しかし、大きな被害がないとわかると再び85円台前半に戻すなど、短時間での荒い動きが続いている。今後も情勢変化に伴う市場の急変が多そうだ。

③ 債券市場

「質への逃避」で長期金利は低下。夏場から徐々に上昇か

1995年の阪神・淡路大震災の1カ月後には株安、円高、債券高の「質への逃避」の流れが鮮明となったが、今回の大震災後は早い段階から「質への逃避」トレンドが鮮明になっているとの見方が多い。3月14日には、逃避マネーが国債市場に流入。長期金利は1カ月半ぶりに1.2%を割り込んだ。

SMBC日興証券の金融市場調査部長/チーフストラテジスト、末澤豪謙氏は、「2011年度当初は東日本大震災を受けた国内経済の低迷などにより、一段の金利低下が想定される。一時的に1.0%近辺までの低下もあり得る。7月以降は復興需要の効果が出始め、新興国の成長や米国の緩やかな景気回復も追い風となり、金利も上昇基調に転じるだろう」と説明する。

しかし経済の先行き不透明感から、「2011年度後半は一方向の上昇基調ではなく、上げ下げの激しい変動率の高い市場になる可能性が高く、中心レンジは1.0~ 1.5%の間と考えている」(末澤氏)

復興財源のための国債発行による金利の上昇懸念については、「経済低迷による税収の下振れ要因を考えると、2011年度中の国債増発規模は10兆円程度になると考えられる。しかし、償還原資が消費税増税などの形で担保されていれば、短期的な国債増発が長期金利の上昇圧力を高めるリスクは限定的だ」と末澤氏は分析する。