米国と異なり過剰流動性の創出は抑制。量的引き締めによる円高効果は限定的か
日銀総裁が植田和男氏に交代してからはや数カ月。日銀の金融政策正常化への観測は、日に日に強まっているようだ。ところで金融政策が量的引き締めに転換した場合、ドル円相場にはどのような影響があるだろうか。本稿では、過去の日米の資金供給量の変化がドル円相場に及ぼした影響の差異に注目することで、その議論を深めてみたい。(記事内容は2023年9月12日時点)
継続する円の独歩安、ドルは対ユーロ・ポンドで再浮上
2023年初来の主要為替相場を振り返ると、2022年来の円の独歩安というビッグピクチャーに変化はない。ドル円相場は、欧米ヘッジファンドを中心とした日米の金利差拡大を受けた円キャリートレードの積み増しにより、2022年9月上旬には年初来12.9%まで上昇した。
その過程で、何度かヘッジファンドが円キャリートレードの大幅な巻き返しを余儀なくされた結果、ドル円相場は急落を強いられた。具体的には、2023年1月には日銀が2022年12月に続き金融緩和の修正を実施するとの思惑から4.0%、2023年3月にはFed(米連邦準備制度)が早期に利上げ停止に踏み切るとの観測から4.8%、また7月には米国のインフレ鈍化や日銀による緩和修正の思惑から4.5%の下落であった。
一方、ドルの対ユーロ、ポンドの関係には変化が生じた。2022年中は、米国のインフレがユーロ圏や英国に先行したことを背景に、ドルは円のみならずユーロ、ポンドに対しても上昇、ドルの独歩高となった。
しかしこの関係は、2023年に入り米国のインフレにピークアウト感が出てきたことから逆転。2023年前半は、ドルがユーロとポンドに対して下落した。同年7月中旬には、ユーロドル相場は年初来6.4%、ポンドドル相場は同9.5%まで上昇している。一方、それ以降は、ユーロ圏と英国のインフレに減速感が出てきたことに加えて、米国景気とインフレの堅調さが再認識され、同年9月上旬には、ユーロドル相場が同1.4%、ポンドドル相場が同4.2%まで下落した。
さて本稿では、日米の資金供給量がドル円相場に与える影響に関して考察してみたい。この観点は、古くは1990年代に考案された「ソロスチャート」を用いた分析を通じて、市場参加者の間で長きにわたって議論されてきた。2001年の日銀によるQE(量的緩和)導入以降は、QEのポートフォリオ・リバランシング・チャネルを通じた影響として議論されるようになった。
そこで今回は、近い将来実行されるであろう日銀の金融政策正常化にフォーカスして、資金供給量がドル円相場に与える影響を考えてみる。
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