• 歴史的円ショートの調整がドル円急落の契機
  • 指標次第で容易に修正される日米の金融政策見通し
  • 家賃の動向次第では年内にFed利下げの可能性すらある
  • デカップリングに起因するドル円のダウンサイドリスク

歴史的円ショートの調整がドル円急落の契機

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

2023年内のFed(米連邦準備制度)の利上げは2回、一方日銀は現在の緩和政策を据え置くとの思惑から、キャリートレーダーによって6月末に145円台まで買い上げられたドル円相場は、7月に入り わが国財務省による円買い介入懸念(7月1日付拙稿をご参照)から失速。12日には、138円台まで急落している。

7月3日時点で、CFTC(米商品先物取引委員会)の対ドルでの円ショートポジションが実に2018年1月以来およそ5年半ぶりの高水準となっていた。ドル円の失速が、短期筋の異常に積みあがった円ショートの調整を誘ったことが急落の契機であった。

指標次第で容易に修正される日米の金融政策見通し

7日には、わが国5月の現金給与総額の伸び(前年比2.5%)が前月(0.8%)を大きく上回り、米国8月の雇用者数(20.9万人)が市場予想(24万人)を下回ると、冒頭に述べた「年内米国2回利上げ」「日本は据え置き」の見通しに黄信号が灯った。

また、12日に発表された米国6月のCPI(前年比3.0%)も市場予想(3.1%)を下回り、Fedによる7月26日の利上げが本年最後との観測も広がった。結局、ドル円相場は5営業日で6円強の急落となった。

家賃の動向次第では年内にFed利下げの可能性すらある

目下、ドル円相場のダウンサイドリスクは枚挙に暇ない。145円超ではわが国財務省による円買い介入懸念が根強い。今後も、経済指標次第でFedと日銀の政策見通しは容易に修正されよう。米国のコアCPI(食品エネルギーを除く消費者物価)の伸びは、6月に前年比4.8%まで低下したが、内訳では家賃(帰属家賃を含む)の寄与度が4.1%とそのほとんどを占めている。コアCPIは、商品や家賃を除くサービスのピークアウトによって2022年半ば以降下落基調となっている。

また、住宅不況によって家賃の伸びも2023年4月以降すでに緩やかな下落に転じており、今後2023年内にFedが利下げに転じるとの観測も出てくるかもしれない。

【図表】米国のコアCPIと項目別寄与度の推移(前年比)
米国のコアCPIと項目別寄与度の推移(前年比)
出所:米国商務省

デカップリングに起因するドル円のダウンサイドリスク

また、東西分断による保護主義が招く非効率化が最近のインフレの根源だとすれば、日本だけがその例外である可能性は低く、日銀も早晩金融引き締めキャンプに参加することになろう。クーデター未遂事件により流動化するロシア情勢もリスクオフの円高を招きかねない。1998年のようなロシア発のキャリートレードの一斉巻き返しが再来するとの懸念すらよぎる。不気味な減速を呈する中国経済と金融不安勃発の可能性にも引き続き要注意である。

7月上旬のドル円相場の急落を目の当たりにすれば、円キャリートレードはもはやチキンゲームと化していたといっても過言ではない。