“分断”の時代の為替リスクを考察する 「何か起きたか」と思うほど低調なアジア経済。リスクオンの円売りは長続きしない
日銀の総裁交代や米国金融機関の信用不安など、相変わらず大きなイベントが絶えない金融市場。今号では足元の為替市場の動向を振り返るとともに、よりマクロな視点から今後の市場を展望してみよう。そこで、1990年代以降のグローバリゼーションと2020年以降のデカップリング(分断)の観点から、為替相場を論じてみたい。(記事内容は2023年6月6日時点)
日経平均とドル円相場の正相関が2023年に復活
2022年のドル円相場は、115円台で始まった。米国では、既に2021年12月にコアCPI(食品・エネルギーを除く消費者物価)が前年比5.5%に達していたものの、Fed(米連邦準備制度)が金融引き締めを開始したのは2022年3月であった。同月の0.25%の利上げを皮切りに、2022年5月のFed会合では0.5%、続く6月以降11月まで0.75%の利上げが4会合連続で実施された。一方、東京都区部のコアCPIは、2022年中は上昇基調ながら同1%台で推移したため、日本銀行は同年10月会合まで金融政策を据え置いた。この結果、日米の金利差拡大に着目した欧米のヘッジファンドが、円キャリートレードの積極的なポジション構築を行い、ドル円相場は、2022年10月に151円台まで上昇した(図表1)。
しかし、ドル円相場の高騰を受けて、MOF(わが国財務省)は、同年9月22日に2.8兆円、翌10月21、24日の両日には、それぞれ5.6兆円、0.7兆円、通算で9.1兆円の巨額ドル売り円買い介入を実施した。一方、米国のコアCPIは、2022年9月の前年比6.6%をピークに翌2023年2月には5.5%まで低下、Fedは、2022年12月において利上げ幅を0.5%に、翌2023年2月には0.25%に2会合連続縮小した。さらに、2022年12月20日には、日銀が、予想外の金融緩和の一部修正(長期金利の誘導目標レンジを±0.25%から±0.5%へ拡大)を実施した。巨額のドル売り円買い介入と、日米金利差の縮小期待を受けて、欧米ヘッジファンドは、それまで積極的に構築してきた円キャリートレードの急激な取り崩しに動き始めた。ドル円相場は、2022年11月以降急落し、2023年1月には、127円台まで下落した。
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