米国の共和党優勢の州政府を中心に反ESGの運動が広がっている。企業年金関係者に対して受託者責任を義務付けるERISA法とESG投資の関係の歴史を振り返りながら、そのポイントや日本への影響を解説する。
- 反ESGは米国内のみで広がる政治的アジェンダ
- ERISA法におけるESG投資の解釈は政権交代の度に転換
- 長期安定的なリターン確保のために投資政策を考えたい
年金運用上のESG投資の解釈は政権交代の度に二転三転
2006年に国際連合がPRI(責任投資原則)を提唱して以来、ESG(環境・社会・企業統治)投資は順調に拡大してきた。しかしここ最近になって、米国で反ESGの動きがみられる。2022年12月1日に公布された米国の企業年金に対するESG投資に関する規制改正では、前トランプ政権下でとられた消極的なESG姿勢を改め、企業年金の資産運用において、ESG要素を考慮して投資判断を行ったり議決権を行使したりできると定められた。ところがその後、それを無効とする合同決議案が議会を通過。これに対してバイデン大統領は、就任後初めて拒否権を行使することを余儀なくされた。
ほかにも、共和党が優勢なかなりの州で反ESG的な政策が具体化し始めた。2021年9月、テキサス州は公務員年金基金に対してエネルギー企業をボイコットする金融機関への投資を禁ずる州法を発効した。フロリダ州では2023年5月に「反ESG法」が成立し、同州や公務員年金が実施する投資に対してESG要素を投資の評価に組み込むことを事実上禁止した。
実は、米国の企業年金におけるESG投資はこれまでも過去30年以上にわたって、その適切性をめぐり論議の的になってきた。その根底にあるのが、米国の企業年金関係者に対して受託者責任を義務付けたERISA法(従業員退職所得保障法)だ。同法における受託者義務は、受益者の利益のために行動する「忠実義務」、専門家として慎重な姿勢で最善の行動をとる「慎重義務(プルーデントマンルール)」、損失を最小限にとどめるための「分散投資義務」、制度の規定に従う「文書遵守義務」──が定められている。
ESGという名ではないにしろ、従来からSRI(社会的責任投資)やコミュニティ投資とも呼ばれるETI(経済目的投資)など、環境や社会への好影響を企図する投資は随所で行われてきた。年金基金が行う投資は、加入者および受託者のリターンの確保が第一義目的であることに議論の余地はない。しかしながら、1974年に制定されたERISA法には経済的リターン以外の付随的な便益を伴う投資に関して特段の規定が定められていなかったため、投資判断にESG要素を組み込むことが同法と整合するのかが長年論点となってきた。
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