債券などの代替アセットとして、今や不動産はポートフォリオに欠かせない重要なアセットクラスとなっている。国内不動産投資の人気の高まりを受け、海外不動産に注目する機関投資家も増えている。本誌は、2019年10月16日に東京において「J-MONEYフォーラム」を開催し、海外不動産運用の専門家がその投資魅力やポテンシャルなどを語った。当日の概要を紹介する。

J-MONEYフォーラム

市場透明度の上昇で不動産投資も活発化

基調講演は、日本大学経済学部教授の中川雅之氏が「海外不動産投資の現状と課題」と題して行った。

中川氏は、「アルゼンチンの社会学者でグローバル都市論などが専門のサスキア・サッセン氏が唱えた『国の経済力の源泉は、高度な専門サービスの供給やグローバルの経済活動にアクセスできるかなどの機能の有無にかかっている』との学説は、世の中が製造業中心から、第三次産業や知識集約産業の社会に移行する中で基本的には正しいだろう」との考えを示した。

グローバル都市化には大きく2つの戦略があり、オリンピックなどの世界的なイベントを契機に大きな建物の建設やハード環境の強化する「メガイベント戦略」は、その後の施設の遊休化を招く可能性もあり、グローバル都市化につながらないケースもあると述べた。

もう1つの「環境整備戦略」は、国際的に発展が可能なビジネス環境整備や不動産取引を行い得る制度整備が、グローバル都市化への大きなファクターになるとの見地に立った戦略だ。

中川雅之氏
日本大学 経済学部 教授
中川 雅之

中川氏は、2010年代に公表された「各国の商業用不動産資産の将来予想」の研究論文を挙げ、「この論文では、2021年、2031年にはアジア太平洋地域の発展途上国の商業用不動産資産が大きく伸びるとの予想がされていた。しかし、国際不動産投資の全体量を示した実際の統計資料では、米国、カナダ地域が大きなプレゼンスを有していた」と解説。この理由の1つとして、「市場成熟度が不動産投資環境を左右する」との見地から分析したKeogh&D’Arcyの論文を引用し、「投資家の目線は、透明な市場環境が整備されているかということに注がれている」と指摘した。

中川氏は、世界の不動産市場に関する透明度を数値化した、総合不動産サービス大手のJLLとラサールインベストメントマネジメントの「不動産透明度インデックス」などを用い、市場の透明度と海外不動産投資の量の関係を分析した論文をもとに、「全世界で見ても、基本的に市場の透明度が上がった場合には、不動産投資も活発になるという正の関係にあることがわかった」との結果を明らかにした。

さらに、「現物不動産インデックス」「規制」「コーポレート・ガバナンス」について、特に投資家が注目している点も指摘。「規制については、政府高官の意思で規制が変更されないか否か、その予見可能性を含めた点に注目が集まっている。コーポレート・ガバナンスへの注目の高さは、企業統治の基準が低い国ほど、そのリスクと引き換えに大きな投資が行われている可能性がある」との分析を語った。

中川氏は、「海外不動産投資を行う場合、先進国・新興国を問わず、透明度などの様々な指標を確認した上で投資判断を行うことが重要だ」とアドバイスした。