メッツラー・アセット・マネジメント デリバティブを活用した一元的なリスク管理と流動性に着目した運用を重視
オランダ、フランスでの大きな政治イベントを乗り越えた欧州だが、9月にはメルケル首相の信任が問われるドイツ下院選挙が控えている。ドイツのプライベート・バンクをルーツに持つメッツラー・グループの資産運用部門を統括するゲアハルト・ヴィースホイ氏に、欧州の資産運用業界の動向を聞いた。(取材日:2017年4月24日)
欧州経済と政治の動向について。
ヴィースホイ 2016年のBrexit(英国のEU離脱)を巡る国民投票以降は、欧州は不安材料と捉えられていたが、機関投資家は徐々に冷静さを取り戻しつつある。理由としては、ファンダメンタルズがそれほど悪くないことが挙げられる。世界経済の成長率は現在およそ3.1~3.2%程度の伸びが見込まれており、欧州の景気は底打ちしたとの認識も広がっている。
市場関係者の注目度が高いのはフランスだ。大統領選はマリーヌ・ルペン氏とエマニュエル・マクロン氏という主要政党に属さない候補同士の決選投票となったが、マーケットはマクロン氏の当選が妥当と見ている。かねてから国内の構造改革とともにドイツとの融和政策の重要性をうたっているマクロン氏が大統領になった後は、ドイツとフランスとの協力関係がより深まることで欧州に新たな変化が起こるだろう。
英国ではBrexitの準備が進むが、経済・金融界の反応は?
ヴィースホイ 金融機関は、英国が「パスポーティング制度」から外れるリスクに対応するため、欧州本社の英国外への移転を着々と進めている。EU(欧州連合)では域内の1国で事業の認可を取得すれば他のEU加盟国でも事業が可能だが、英国で認可を受けていた場合はEUでの事業継続が困難になる。
英国の「パスポーティング制度」からの離脱はまだ正式に決まってはいないが、金融機関の移転には複雑なITシステムや大量の個人情報の移行が付随するため、早くから取り組まないと間に合わない。ドイツのフランクフルトは企業が多く、大きなマーケットもあるため、移転先の有力候補として挙がっている。
かつて「Gateway to Europe」と呼ばれていたように、事業会社も欧州でビジネスを拡大させる際は本社を英国に置いてきた。特に日本企業は、ここ数年、欧州企業に対して買収や資本参加などの直接投資を行ってきた。「英国からの分散」を目的としたM&Aは、Brexit後はさらに活発になるだろう。
欧州の機関投資家の運用動向にはどのような変化があるか。
ヴィースホイ ボラティリティの高まりとともにリスク対応が課題になっている。ドイツの運用業界では、リスク管理を専門に行う「リスクオーバーレイマネージャー」の採用がトレンドだ。彼らは個別のアセットを運用するのではなく、オプションや先物などのデリバティブを活用して各アセットのポジションを一元的に調整し、ポートフォリオ全体のリスク管理を行う。
当社もリスクオーバーレイマネージャーとして、年金基金や機関投資家からポートフォリオの管理を任されている。質の高いリスク管理を遂行するには、高機能なITシステムを駆使した機動的なトレードが求められるが、長い経験と歴史に裏打ちされたノウハウも重要だ。
統計学的に算出したリスクやリターンの値はただの数字に過ぎず、100年に1度のイベントリスクが短期間に連続して起こる可能性もあり得なくはない。当グループは、1674年の創業から343年の長きにわたって多様な顧客の資産を運用してきた。その間に数多くの戦争や世界恐慌といった未曽有の危機もあったが、それらを乗り越えて我々は今日まで資産の運用と保全を任されている。
年金基金に対してメッセージを。
ヴィースホイ EU全体の景気は上向いてきた一方で、金利上昇に耐えられる国ばかりではないため、低金利環境はこれからも続くだろう。そうしたなか年金基金や機関投資家は、わずかでも高い利回りのアセットがあればそちらに流れる印象を受ける。最近ではインフラ投資が人気だが、私たちは年金基金に特有の流動性リスクに気を付けるよう、アドバイスしている。
インフラ投資の多くはファンド経由だが、非上場証券への投資がほとんどで流動性に制約がある。10~20年程度など、あらかじめ決められた期間は中途解約が原則不可という特徴にも注意が必要だ。歴史が示すように、どんなに儲けがでている銀行でも流動性がなくなると破たんする。当グループでは流動性が十分に確保されたアセットにしか投資しないので、流動性の面でも年金基金をサポートできると考えている。