豊富な研究資金を確保する海外大学との競争や、少子化にともなう財源確保のため、大学にとって資金運用は中長期の財政基盤を支える重要なテーマとなっている。資金運用担当者や有識者の声を通じ、大学の資金運用戦略と今後の展望について概観する連載「大学基金の運用戦略」。今回は、国立大学で初めてアセットオーナー・プリンシプルの受け入れを表明した筑波大学を取り上げる。大手銀行の為替ディーラー、企業年金基金の運用責任者を経て、2024年に筑波大学に着任した野手弘一副学長(資産運用担当)・CIOに、同大学が目指す資金運用の姿を聞いた。
国立大学の資金運用は「3ない状態」

副学長(資産運用担当)CIO
事業・ファイナンス局長
野手 弘一氏
2024年4月に着任した当時、筑波大学の資金運用はどのような状況だったのか。
着任時点で、資金運用の高度化に向けた問題意識があり、事業・ファイナンス局の設置準備も進んでいた。一方、実際の運用は、他の多くの国立大学と同じように現預金と国内債券が中心。長期分散運用に必要な知識や専門人材を組織内に蓄積する体制は、まだ整備途上にあった。
私は、国立大学の資金運用が抱える課題を、①運用の知識がない、②専門人材がいない、③学内の理解がない──という「3ない状態」と表現している。筑波大学の場合、①と②は課題だったが、③には一定の理解があった。だからこそ、着任後すぐに体制整備や基本ポートフォリオの構築へ踏み出すことができた。「3ない状態」にある大学であれば、まずは③の「なぜ資金運用が必要か」を共有するところから始めたい。
デフレ期には、現金や国債で資金を運用することに合理性があった。しかし、インフレ環境下では、資金を安全資産に寝かせておくだけでは実質的な購買力が損なわれる。大学には、留学生の受け入れや海外留学、研究者の育成、施設の建設・修繕など多くの資金需要がある。本学は、資金運用を単なる「余裕金の管理」ではなく、教育・研究を持続し、大学の財務基盤を将来にわたって支える「経営戦略」と位置づけ、注力している。
原資をつくり、運用して育てる「車の両輪」
2024年4月に事業・ファイナンス局を設置した背景は。
事業・ファイナンス局の下には、「資産運用・ファイナンス室」と「事業・リレーション推進室」の2つを置いている。
資産運用・ファイナンス室は、資金運用戦略や不動産運用戦略の立案、資金の調達・償還などを担う。金融手法を高度化し、将来に向けた大学の資産形成と運用収入の拡大を進めることがミッションである。
一方、事業・リレーション推進室は、新規事業の開発、寄附募集、基金の造成、同窓会やステークホルダーとの関係構築を通じ、寄附金や事業収入を獲得して運用原資を増やす。
運用原資の拡大と運用収入の増加を別々の部署に分断せず、同じ局の下で一体的に統括することで、ファンドレイジング(寄附金の募集・獲得)部隊は、その資金をどのように運用し将来の教育・研究へ還元するのかを寄附者に説明でき、また運用部隊は、資金の背景や基金の目的を理解したうえで業務に取り組むことができるメリットがある。この2つは「車の両輪」の関係であり、両方が機能することで大きなインパクトが生まれるのだ(図表1)。
筑波大学は、持続可能な自立した財務基盤を確立させるため、専門人材(ファンドマネジャー・ファンドレイザーなど)を育成していくとともに、さらなる事業収入および寄附金を獲得し、それらを財源に運用益の拡大を一体的に推進していくことを目的に、事業・ファイナンス局を2024年4月に設置した。また、専門人材の育成に向けては、学内外公募による専門人材確保・育成の仕組みも整備し、2024年度から1名配置している。当該職員は、実績的な知識やスキルの習得を目的として、2026年度から銀行へ出向中。

基本ポートフォリオは、GPIFを参考に伝統4資産を均等配分
具体的な運用状況は。
国立大学の余裕金には、一般余裕金と特定余裕金がある。運営費交付金、学生納付金、附属病院収入などを原資とする一般余裕金は、使用時期を見据え、安全性や流動性を重視して運用する。一方、寄附金や不動産の使用収益、研究成果の活用による収入、運用利益などを原資とする特定余裕金は、法令上認められた範囲で国内外の株式・債券を含む長期運用が可能だ(図表2)。

※指定国立大学法人は、国立大学法人における業務上の余裕金のうち、 ①寄附金、②動産・不動産収入、③研究成果の普及展開業務の対価、④出資の配当金、⑤運用利子・配当を原資として、金融商品取引法に規定する有価証券であって政令で定めるもの(株式を除く)、預金又は貯金(文部科学大臣が適当と認めて指定したものに限る)、信託会社又は信託業務を営む金融機関への金銭信託により資金運用を行うことができる
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