インフレ、金利の不確実性やオルタナ資産の高まるボラティリティなど資産運用を取り巻く環境が複雑化の一途を辿るなか、機関投資家にとって「分散ポートフォリオ」の構築は引き続き必須課題だ。しかし、予期せぬ市場環境の変化やイベントの発生により、意図した通りのリスク分散が効かなくなるケースもあるだろう。金利復活下で真に機能するポートフォリオの最適解を探る特集「『金利ある世界』における年金基金・金融法人・大学の資産運用」。米独立系運用会社のニューバーガーは、分散投資先として注目するアセットクラスとして、国内プライベートデット(主に大型バイアウト向け、円・変動金利建てLBOシニアローン)を挙げる。

藤田 靖之氏
ニューバーガー
日本プライベート・デット運用部長
マネージング・ディレクター
藤田 靖之

東京証券取引所の市場改革やアクティビズムの活発化に伴う非公開化ニーズ、事業承継問題といった要因を背景に、日本のバイアウト市場は件数・取引金額ともに拡大を続けている。

これに伴い、買収資金を提供する国内LBO(レバレッジド・バイアウト)ローン市場も急速に拡大している。数年前まで年間2〜3件程度だった1,000億円超の大型案件は、足元では年間約10件が組成される水準に達し、新規LBOローン組成金額は2024年に約2.9兆円まで成長した(2019年では約0.8兆円)。

円建てPDの優位性は、米国プライベートクレジットに対する相対的な魅力度の向上と、地域分散効果にある。とりわけ近年は、拡大する市場に新たな資金供給者を呼び込む過程で経済条件の適正化が進み、米国のLBOシンジケートローン市場と比較しても、相対的に良好な条件が整いつつある。

加えて、金利のある世界の到来により、為替ヘッジコストが不要な円建て変動金利型PDの利回りは、ヘッジコスト控除後の米国PD対比で魅力度が向上していると言えるだろう。

さらに注目すべきは、「日本市場特有の非効率性」である。通常、クレジット市場ではクレジットリスクが比較的高い中小企業の案件ほど利回りが高い。

しかし日本では、大型案件の資金供給者がメガバンクにほぼ限定されている。この結果、レンダー(貸し手)間の競争が少なく、本来クレジットリスクが低い大型案件のほうが、中小案件よりも経済条件やストラクチャリング面で優位になるという逆転現象が起きている。変動金利建てのシニアローンが金利上昇局面で利息増加のメリットを享受できることに加え、国内LBOローンの融資実行時手数料水準がグローバル対比で魅力的な水準を維持していることも、投資妙味を高めている。

一方で、変動金利建てであることは、金利上昇局面で投資家の受取利息が増加する恩恵をもたらす半面、借入企業の返済負担増加というクレジットリスクと表裏一体である。

また、為替変動や関税をはじめとするマクロ環境の変化が企業のキャッシュフローに下方圧力を与える可能性や、非公開資産ゆえの流動性の低さにも十分な留意が必要だ。逆風下でもリスクに適切に対処できるよう、投資時点での厳格な審査に加え、コベナンツの厳格な管理と能動的なモニタリングを通じて、予兆管理を徹底することが重要になる。