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金融市場との低相関が魅力の「保険戦略」

J-MONEY2019年12月号 注目記事

機関投資家のポートフォリオ戦略

自然災害リスクの対価がリターンの源泉
金融市場との低相関が魅力の「保険戦略」

長引く低金利環境の中、投資資金の振り向け先に頭を悩ませる機関投資家は少なくない。他方、政治リスクの顕在化などの影響で各資産の値動きの連動性が高まる中、金融市場との価格相関性が低い「保険戦略」に注目が集まっている。今回は、数ある保険リンク証券のうちCATボンド(CatastropheBond:大災害債券)と、クォータ・シェア(比例再保険)に着目した投資戦略を紹介する。

度重なる自然災害を経て
問われる保険戦略の“中身”

 保険リスクを証券化した保険リンク証券は、保険 会社などが保有する保険金支払いリスクを資本市場に移転するために発行される証券だ。

 保険リンク証券の代表的な商品である「CATボンド」を例に仕組みを見ていこう。CATボンドは、地震やハリケーンなどの大規模自然災害による損失をヘッジしたい保険会社などが特別目的会社(SPC)を通じて発行する債券だ。投資家サイドから見ると、償還期日までにCATボンドが対象とする災害が起こらなければ、元本の保証に加え、高いクーポン(保険料)を受け取ることができる。一方、期中に契約内容に含まれる災害が発生すれば、CATボンドの発行体企業に保険金が支払われるため、投資家サイドの元本は毀損(きそん)する仕組みとなっている。そのほか、保険リンク証券には、「インダストリー・ロス・ワランティ(ILW)」、「担保付再保険」「クォータ・シェア」などの種類がある(図表)。

 保険リンク証券は、リターンの源泉が災害発生リスクに対する対価という性質上、各国の政治・経済の状況や、株式・債券などの伝統資産と相関が低い特徴を持つ。東京海上アセットマネジメント 債券運用部 部長の秦正英氏は、「足元、政治リスクにより伝統資産の値動きが不安定化する中、金融市場との相関が低い保険リンク証券を対象とした投資戦略の魅力度は高まっている」と語る。

 また、損保ジャパン日本興亜アセットマネジメント クライアントサービス第二部 金融法人グループ営業部長/グループリーダーの井上武宣氏は、「株式や債券投資の場合、仮に米国で金融危機などが起これば、連鎖的に関連地域の市場は影響を受ける。対して、保険リンク証券投資の場合は、特定地域に発生した災害の影響が、異なる地域の災害を対象とした資産に影響を及ぼすことはない。他の市場や資産の値動きの影響を受けにくい特徴がある」と話す。

 こうした、金融市場との“低相関”の魅力が評価され、2011年頃から急速に人気を集め始めた保険戦略であったが、2017~2018年には大災害が相次いで発生したことで保険戦略は軒並み下落、解約を検討する投資家が増えつつあるようだ。ただし、すべての保険戦略が大きな損失を被ったわけではない。各社の保険戦略を丁寧に見比べると、パフォーマンスには開きがあることがわかる。アムンディ・ジャパン ディレクター 運用本部インベストメント・ソリューション部 副部長の中島範明氏は、「保険リンク証券投資では、自然災害は予測できないので、災害による損失は避けることができない。だからこそ、対象とする災害の種類・地域を十分に分散した戦略であるか、特定のリスクに偏った戦略ではないかといった、運用者の見極めが保険戦略のパフォーマンスを左右する」と語る。2017~2018年に経験した災害によるストレスチェックを経て、明暗が分かれた保険戦略。今後、保険戦略を検討する際は“中身”の見極めが重要になるだろう。

CATボンド

保険リンク証券の代表格
相対的な利回りの高さがポイント

 保険リンク証券の代表格であるCATボンドは、伝統資産に対する低相関と相対的な利回りの高さがポイントだ。他方、保険リンク証券の中で最も市場規模が大きい担保付再保険と比較すると、CATボンドはミドルリスク・ミドルリターンの特性がある。損保ジャパン日本興亜アセットマネジメント 債券運用部 インベストメントマネージャーの若松裕太氏は、「担保付再保険が持ち切りを前提とした相対取引が中心の契約である一方、セカンダリーマーケットが存在するCATボンドは途中で転売可能なことから、相対的に流動性は高く、リスク・リターンは低くなる傾向がある」と語る。

 2017~2018年には、CATボンド市場の中心地である米国を複数の災害が襲い、「売却すべきか」「新規投資のタイミングとして適切なのか」と不安を抱く投資家も少なくない。秦氏は、「CATボンドの期待損失率に対して何倍のクーポンが付いているかを示すクーポン倍率の推移を見ると、2011年頃からの資金流入の影響によりクーポン倍率は低下傾向にあったが、2019年に入り明確に反転している。CATボンド市場への資金流入が減速する中で、割高修正が進んだCATボンドは、いまこそ買いのタイミングだ」と分析する。

損保事業で培ったノウハウを
ファンド運用に活用


損保ジャパン日本興亜アセットマネジメント
債券運用部 インベストメントマネージャー
若松 裕太氏(左)

クライアントサービス第二部 金融法人グループ
営業部長/グループリーダー
井上 武宣氏(右)

 そんな、CATボンドを主な投資対象とする運用に強みを持つのが、損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントと東京海上日動アセットマネジメントだ。

 損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントの『CATボンド運用』の特徴は、流動性や価格の透明性の観点から担保付再保険には投資せず、CATボンドのみを投資対象とする点だ。このうち、日本の自然災害リスクを対象とするCATボンドを投資対象から除外している。井上氏は、「日本のお客様は、日本株や円債に加え、国内に実物資産を保有している場合が多い。東日本大震災後、日本の株式市場が大きく下落した経験からわかるように、日本の自然災害リスクを含む保険戦略を保有してれば、お客様は災害発生時に保有資産もろとも影響を受けてしまう。そこで、国内のお客様向けに、日本の自然災害リスクを除外した保険戦略を提供することが、他の金融資産と相関性が低いCATボンドの魅力を最大限享受いただく方法と考えた」と強調する。

 CATボンドの銘柄選定は、同社グループの損害保険事業の根幹を担うSOMPOリスクマネジメント社が提供する情報を活用している。若松氏は、「自然災害リスクの分析には社債発行体のクレジット分析などとは大きく異なるノウハウが必要となる。そのため、損害保険事業の一環として地震・台風・洪水など、様々な自然災害のリスク分析を行ってきたグループ会社のノウハウを個別銘柄のリスク定量化のほか、一つの災害で大きな影響を被らないようなポートフォリオの構築にも活用している」と話す。

 また、同社の『CATボンド運用』の強みとして、迅速な情報提供がある。井上氏は、「米国リスクがメインの商品設計だが、東京に運用担当者を配置しており、災害発生時にも日本時間できめ細やかな情報提供が可能だ」と語る。同戦略の収益目標は、信託報酬控除前ベースで4.0~5.0%。安定的な利回りを求める投資家のニーズに応える水準となっている。

米国に運用担当者を配置
取引・情報収集で優位性を発揮


東京海上アセットマネジメント
債券運用部
部長
秦 正英氏

 CATボンドの商品性は、年金基金など日本の機関投資家の関心が高い。日本で災害が発生した場合でも伝統資産との低相関を維持する東京海上アセットマネジメントの『東京海上AM・CATボンドファンド』もその一つだ。

 組入銘柄の選定の際に不可欠なCATボンドのリスク分析には、モデリング会社のリスク評価モデルを活用。米国ハリケーンを対象とするCATボンドであれば、州単位だけでなく郡単位まで細かくリスク分析を行うなど、様々な観点から分散効果のコストとメリットを考慮し、その上でリスク・リターン特性の優れたポートフォリオを構築している。実質的な運用は、同社の100%子会社TokioMarineAssetManagement(USA)が行う。秦氏は、「日本の顧客向け商品においては、日本の災害リスクの影響を極力除外するスキームは大切だ。同時に、CATボンドの主要マーケットは米国である。現地に運用担当者を配置する運用体制は、取引や情報収集の点で優位性があると考える」と語る。

 同戦略の特徴として成功報酬制ではなく固定報酬制を採用している点が挙げられる。秦氏は、「CATボンドは、自然災害の有無により収益が左右される商品だ。たまたま自然災害が発生せずに高リターンを享受できる局面で、成功報酬を受け取ることに疑問を感じるため、単年度のパフォーマンスに応じて成功報酬をいただくことはしていない」と話す。

 株式や債券などに比べて市場規模が劣るCATボンドは、相対的に流動性が低い。しかし、同戦略は原則月1回の設定・解約が可能。投資家にとって保有しやすい設計と言える。収益目標は、信託報酬控除後で3.5~4.0%、期待損失は年率2%程度。原則、為替リスクはフルヘッジする仕組みだ。

クォータ・シェア

再保険会社のポートフォリオを「輪切り」
大きな損失リスクを抑える


アムンディ・ジャパン ディレクター
運用本部
インベストメント・ソリューション部 副部長
中島 範明氏

 他方、アムンディ・パイオニアには、数少ないクォータ・シェアを活用した投資戦略がある。

 クォータ・シェアとは、再保険会社の抱える事業リスク(再保険ポートフォリオの損益)を比例で一部引き受ける契約だ。再保険会社は、特定の災害で事業リスクが顕在化しないように、数百から数千に上る再保険契約に分散されたポートフォリオを構築している。著名な再保険会社には、スイスの再保険大手スイスリーやドイツの再保険大手ミューニックリーなどがある。中島氏は、「優れた再保険会社のポートフォリオを『輪切り』にした一部分を引き受けることで、災害リスクが十分に分散されたポートフォリオにアクセスできる。さらに、当社は様々な再保険会社のクォータ・シェアに分散投資している。自然災害・地域が分散された戦略なので、多くの災害の影響を少しずつ受けるが、ある特定の災害で大きな損失を受けるリスクが抑えられた戦略となっている」と強調する。

 実際に、クォータ・シェアを活用した戦略の開始から6年間のパフォーマンスを見ると、運用報酬控除後の年率リターンは5.5%、年率リスクは5.0%、累積リターンは37.8%となっている。そんな魅力度の高いクォータ・シェアだが、保険リンク証券市場の中でも市場規模が小さく質の高いクォータ・シェアに十分なアクセスを持つ運用会社は限られているという。「保険会社や再保険会社からリスクを引き受けるパートナーとして選ばれるには、運用会社としての長期の実績、事業分散に基づく安定性、取引実績に基づく信頼関係が重要になる」(中島氏)。