国内機関投資家のマルチアセット戦略への注目が高まるなか、ピクテ投信投資顧問の『ピクテ・マルチアセット・アロケーション戦略』(クアトロ)は安定性を前面に打ち出している。同戦略の運用プロセスや運用体制について、スイスでマルチアセット戦略を統括するエリック・ロセ氏に話を聞いた。(取材日:2018年6月27日)

オルタナティブ資産にも注目、3つのバケットで資産配分を管理

エリック・ロセ氏
ピクテ・アセット・マネジメント
Head of Multi Asset Switzerland
エリック・ロセ

『クアトロ』は、他のマルチアセット戦略と比較してどのような違いがあるのか。

ロセ 最大の特徴は、きわめて保守的なポートフォリオであることだ。ピクテでは日本の金利上昇とインフレ率の上昇を見込んでおり、今後5年間、5年国債から得られるリターンは名目で年率マイナス2%、実質ではマイナス4%まで低下すると考えている。国債に代わる新たな運用戦略が求められるなかで、いかなる市場環境でもかつての国債と同程度の安定したリターンを目指す『クアトロ』がその役割を果たしてくれると考えている。

資産クラスでは、株式と債券だけでなくオルタナティブ資産にも注目していることが特徴だ。ベンチマークを設定せず、アロケーションの目標も固定しない。市場環境などの変化に応じて、我々が持ちたいと考える資産を柔軟に選択しながらポートフォリオを構築している。

『クアトロ』の投資戦略とは。

ロセ 分析、意思決定、ポートフォリオ構築、リスクマネジメントの4つのプロセスで運用している。分析プロセスでは、マクロ、流動性、バリュエーション、テクニカルのテーマごとにワーキンググループを設けて、それぞれの分析結果をもとに各資産クラスの魅力度を5段階のスコアで示す。

意思決定プロセスでは、スコアをもとにどのようなアセットアロケーションを行うかを議論する。現在の状況は「強気相場の最終局面」であり、流動性やバリュエーションに対してはネガティブだが、景気はある程度の力強さがあると判断し、そうした状況に合った配分を決定する。

最も重要なプロセスがポートフォリオ構築だ。『クアトロ』では、資産クラスを「成長」「保全」「低相関」という3つのバケットに分けて扱う。成長バケットはリスクオン資産と相関の高い資産群であり、株式、ハイイールド債券などのクレジット資産、ポンドやユーロといったリスク通貨が当てはまる。保全バケットはリスクに対して逆相関の性質を持つ資産クラスで、代表的な資産は金やボラティリティロング(ボラティリティインデックスの買いポジション)。このほかリスクオフのときに活躍する資産として、債券では米国債やドイツ国債、通貨ではスイスフランや日本円が挙げられる。低相関バケットは、あらゆる資産クラスに対して相関が低い資産の集合で、その最たるものはヘッジファンドのような絶対リターン戦略だ。

これらの3つのバケットについて、市場のさまざまな局面に合わせて配分を変更するのだが、それぞれのバケットのなかでの資産配分も頻繁に変えている。例えばリスクオン局面では、成長バケット内で具体的にどの資産クラスがよりリターンに寄与するかを見極め、資産を選別している。

社内に広範なリターンの源泉を持ち、それぞれが高い専門性を有する

ピクテのマルチアセット戦略を支える運用体制の強みとは。

ロセ ピクテは全社で100本前後のアクティブ型のプロダクトを運用しており、その投資対象は広範囲にわたる。マルチアセット運用チームはこれらの戦略をまとめあげる、オーケストラの指揮者のような役割を果たしている。各プロダクトのマネージャーが奏でる楽器を活用して、最適なポートフォリオの構築を目指す。

ピクテでは古くから世界の株式や債券、クレジット資産などを運用しているほか、テーマ型株式に特化したチームや、ヘッジファンドの運用チームも社内に抱えている。自社の広範なリターンの源泉を活用してアロケーションを行えることが、ピクテのマルチアセット戦略の強みだと考えている。

ピクテのマルチアセット運用チームが手がける資産は、会社全体の純資産残高の約10%にのぼる。

日本の機関投資家に『クアトロ』を勧める理由とは。

ロセ あらゆる資産クラスの期待リターンが低下していることが挙げられる。10年ほど前までは、伝統的資産の固定資産配分によるバランスポートフォリオで、一定の収益を上げる運用が可能だった。しかし現在は、冒頭で日本国債のリターンが悪化する可能性を述べた通り、従来のアプローチでは投資家に十分なリターンを還元することが非常に難しくなっている。この先の市場環境を踏まえれば、よりアクティブかつ柔軟な運用が重要になると考えられる。必要なのは、より広範な資産クラスに投資することであり、それぞれの資産クラスにおいて高い専門性を発揮することだ。

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『クアトロ』は流動性のある資産で構成されているため、低流動資産への投資が制約上難しい機関投資家が活用を検討する例が増えているという。1~2年前までは投資が難しかったが、最近ではマルチアセット枠やオルタナティブ枠を設ける年金基金なども見られる。『クアトロ』は日本の幅広い機関投資家にとって利用しやすい設計といえそうだ。