ピクテ投信投資顧問は2018年1月、新たに「機関投資家営業本部」を立ち上げた。本部長を務める黒瀬憲昭氏に、新部署の狙いやピクテの資産運用ビジネスについて聞いた。(取材日:2018年2月8日)

組織変更で多彩な人材を採用、既存顧客へのリターンを優先

新部署を立ち上げた経緯や狙いとは。

黒瀬 憲昭氏
ピクテ投信投資顧問
常務執行役員 機関投資家営業本部長
運用商品副本部長(商品担当)
黒瀬 憲昭

黒瀬 2017年までは、年金や事業法人のお客様を担当する「投資顧問チーム」と、金融機関の自己資金運用に対する営業を行う「金融法人営業チーム」で機関投資家営業部を構成していたが、2018年1月の組織改正に伴い、それぞれのチームを部に昇格するとともに、主要証券会社や銀行を販売会社とするリテール事業もホールセール営業部として機関投資家営業本部の傘下とした。

この背景には、主要証券会社や銀行が取り扱うリテール向け商品も高度化しており、カスタマイズした運用ソリューションの提供がより必要とされているため、機関投資家向けビジネスの枠組みとしたことがある。

組織の拡大に伴い、各部署の人数も増加したのみならず、バイサイド、セルサイド、出身母体や年齢構成も異なる多様な経歴の人材でチーム・ポートフォリオを構築している。このため、それぞれの経験や人脈を生かして幅広い情報を集め、アイデアを捻出できることが強みとなっている。

ピクテには堅実で保守的な印象がある。

黒瀬 ピクテは1805年にスイスのジュネーブで創業し、プライベートバンクをルーツとする212年の伝統がある。近年では経営陣が若返ったことで、コンサバティズムという伝統を残しつつ、革新的なサービスを生み出す体制が確立している。

私もピクテに移籍して4年8カ月となるが、この間でも組織の進化を実感しており、歴史はイノベーションの連続により形成されることを改めて感じている。従来、日本の年金業界で、ピクテといえばエマージング債というイメージが強かったが、2014年に日本の年金市場に投入した市場中立型のマルチストラテジー戦略は、三井住友信託銀行を通じて残高が1100億円まで拡大した。現時点では新規募集を一時的にストップしている状況だ。それぞれの顧客セグメントにおいて強いパートナーと組み、そこで従来のラインアップになかった運用戦略をピクテが提供することで、年金のお客様のニーズに少しは貢献できたのかなと考えている。

ピクテでは、適正なキャパシティを超えた運用は行わない。他社ではマルチアセット型の運用で資産額がふくらみすぎ、リターンが希薄化したケースもあった。ピクテでは流動性やマーケットインパクトなどを分析し、キャパシティが一杯になるかなり手前でいったんソフトクローズをかける。既存のお客様にきちんとリターンを返すことを優先させるためだ。正直、営業目線としては、ピクテ本社のキャパシティに対する考え方はあまりにも保守的過ぎるのではないかと思わないこともないが。

顧客の資金が流出しない仕組み、低流動性のオルタナティブにも注力

ピクテの強みとは。

黒瀬 1つは経営母体の安定性だ。ピクテ・グループは3つのビジネスポートフォリオで構成されている。祖業であるプライベートバンキングと、それに付随したグローバルカストディビジネス、そして1967年に始まったアセットマネジメントだ。

株式市場が好調なときはお客様のリスク許容度が上がり、アセットマネジメントが伸びる。市場がクラッシュしたらアセットマネジメントの資金は減る傾向があるものの、その資金はプライベートバンキングの預金に入る。つまり、マーケットがどのように動いても資金がピクテ・グループから流出しにくい構造となっている。この点は他の独立系運用会社との大きな違いといえる。

未上場である点も重要だ。アセットマネジメントはお客様から中長期の資金を預かるビジネスだが、上場すれば短期的な利益を求められる。未上場だからこそ、お客様と同じ中長期のスタンスで資金を運用できる。

こうした保守的な経営が評価され、フィッチ・レーティングスによるピクテの信用格付けは、2018年1月末時点でも日本国債より高いAA-であり続けている。

ピクテの運用商品の特徴と、今後の展開について。

黒瀬 プライベートバンキングで培われたマルチアセットの商品が強みだ。主に年金基金向けの商品として、高流動性のオルタナティブ戦略である市場中立型のマルチストラテジー運用に力を入れている。運用チーム自体をピクテに引き入れ内製化しているため、より機動的な運用とリスク管理ができることが特徴だ。現在、グローバル株式、債券、地域や戦略特化型など15の異なるチームで運用しているが、ここで成功したチームは単品でも商品を提供する。今年は、エマージング債券のロング・ショートに加え、日本株のマーケット・ニュートラル戦略の単品化も予定している。

低流動性資産の運用も強化している。現在はプライベート・エクイティのファンド・オブ・ファンズを日本で提供する準備を進めている。直近のシリーズでは、8億1000万米ドルをグローバルで集めている。

アセットマネジメントの世界は変化が激しい。10年後は全く違う環境になっているだろう。足元の数字を追うためには長期のビジョンが不可欠だ。我々は常に次の5年、10年を担う運用戦略を探りながら、お客様に対して多様な戦略を提案していきたい。