経済指標を読み解く コロナ前水準に戻した景気動向指数・一致CIの2022年6月分速報値。7月も「改善」判断か第1回が8月下旬公表予定のサービス含む景気把握・新指標に注目
一致CIの指数水準99.0は、コロナ前の2019年9月以来の水準に
景気動向指数・2022年6月分速報値では、先行CI(コンポジット・インデックス)が前月差マイナス0.6と2カ月連続の下降になったものの、一致CIは前月差プラス4.1と3カ月ぶりの上昇になった。
景気変動の大きさや量感を測定することを目的とする一致CIの指数水準は、2015年を100とした指数で、99.0になり、2019年9月の100.7以来の水準になった。
一致CIは2020年5月の景気の谷では74.6まで低下しており、谷から24.4ポイント戻した。GDP(国内総生産)統計に先駆け、新型コロナウイルス流行前の水準の戻した指標となった。
7月分の基調判断は、6カ月連続で「改善」になる見込み
最近の一致CIを使った景気の基調判断を見ると、2021年3月分~8月分と「改善」の判断は据え置きになっていたが、同年9月分では「足踏みを示している」に下方修正され、10月分~2022年2月分速報値では「足踏みを示している」の判断が継続となった。
しかし、生産・出荷関連データの年間補正などがあった2月分改定値では「改善」に戻るための、「3カ月以上連続して、3カ月後方移動平均が上昇、かつ当月の前月差の符号がプラス」という条件を満たした。3月分~6月分でも「改善」の判断が継続となった。
6月分は、一致CIの前月差も、3カ月後方移動平均の前月差もともに上昇した。このため、再び「足踏み」に下方修正になるための「3カ月後方移動平均の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月または3カ月の累積)が1標準偏差以上、かつ当月の前月差の符号がマイナス」という条件は満たさなかった。
ロシアのウクライナ侵攻の長期化や生活関連品目のインフレ継続、新型コロナウイルス感染再拡大など厳しい経済環境下であるものの、2022年7月分でも景気動向指数による「改善」の判断が継続となる可能性が大きい。
一致CIの前月差が下降になるとしても、過去の指数が不変であれば、5ポイントを超える大幅な下降にならなければ、3カ月後方移動平均の前月差のマイナス幅が1標準偏差に届かないとみられる。
サービスや消費にも重点を置く、景気を把握する新たな指標
内閣府は2022年7月19日の景気動向指数研究会で、サービスや消費にも重点を置く新たな景気動向を把握する指標を設ける方針と、当面は参考として公表することを決めた。景気動向指数で景気の現状を示す一致指数は製造業の比重が高く、サービス業の存在感が大きくなった経済の実態を十分把握できていないとの指摘を踏まえた対応だ。
景気動向指数は景気の山・谷を判断する主要なデータとなる。2020年に、内閣府が2012年12月に始まった景気回復局面が2018年10月に山を迎えて途切れたと認定した際、製造業の動向を強く反映しているとの指摘があった。2018年10月は米中貿易摩擦の影響で輸出や生産に停滞感が強まり始めた時期に当った。
新たな指標は、経済の総体量の変動を反映できるものだ。総体量としては、生産→分配→支出(→生産)というマクロ経済の好循環が回っているかを念頭に置き、三面それぞれから捉える。自律的な動きに焦点を当てるため、支出面においては政府支出、在庫の増減、輸入(控除項目)を除く。財とサービスについては両者がバランスよく含まれるようにするといった点を採用系列検討に当たり考慮したようだ。
具体的には下記の17系列が選ばれた。景気を把握する新しい指数(一致指数)を算出するときに各分野のウエイトが考慮されている。選ばれた17系列のうち、財関連は9系列、サービス関連が8系列である。
生産面(供給)(財:サービス=4:6) |
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財:
①鉱工業生産指数(最終需要財) |
サービス:
④第3次産業活動指数(広義対個人サービス) |
分配面(所得) (家計:企業=7:3) |
家計:
⑥実質総雇用者所得(第2次産業) ⑦実質総雇用者所得(第3次産業) |
企業:
⑧営業利益(第2次産業) ⑨営業利益(第3次産業) |
支出面(需要) (消費:投資:輸出6:2:2) |
消費:
⑩実質小売販売額 |
投資:
⑬資本財総供給 |
輸出:
⑯輸出数量指数 |
幻の、2019年4月の景気の山と77カ月間の戦後最長の景気拡張局面
この17系列で2017年~2019年にかけての2017年中に山をつけたのは2系列、2018年中に山をつけた系列は4系列、2019年2月から4月の3か月は各1系列で、2019年4月までに過半数の9系列が山をつけている。あとは、2019年5月4系列、2019年9月3系列、2019年12月1系列である。
2012年11月を谷とする景気循環の正式な景気の山は2018年10月で景気拡張期間は71か月間で戦後最長の73か月(いざなみ景気)を超えられなかったが、仮に新しい景気指標でみると景気の山は2019年4月で拡張期間は77カ月だったかもしれない。なお、直近の景気の谷は2020年5月で正式な判定結果と変わらない。
景気を把握する新しい指数については、データの蓄積も踏まえたパフォーマンスの検証や、今後の課題(先行指数・遅行指数の扱いなど)の検討が必要であり、当面、参考指標としての公表にとどまり、必要に応じた改良を行うという。
景気を把握する新しい指数(一致指数)を用いた場合の景気の山・谷判定手法をどう考えるかについては、今後の課題とすることから、景気の山谷の判定については、当面従来の手法で行い、過去の山・谷を判定し直すことはしないという。
新しい指標は、毎月、第3次産業活動指数公表の数営業日後の公表という。2022年8月下旬公表予定の第1回発表の内容を注目したい。