取引コストの低下や利便性向上などの理由から、外国為替市場で影響力を増している電子取引。その現状と課題を専門家に聞くとともに、各社の電子取引プラットフォームの特徴を紹介する。(取材日:2018年6月29日)
取引ニーズに応じてメリットに差異
企業や運用会社といったバイサイドとセルサイドの金融機関との為替取引では、2000年代以降、特定の銀行が自行の顧客に対して売買可能な価格を提示する「シングルバンク・プラットフォーム」が導入されはじめたことで電子化が進んだといわれる。
外国為替の電子取引は、商品性が均質で取引量の多いドル/円やドル/ユーロのスポット取引では、プライスの透明性と公平性、取引の高速性と効率性などにおいて、より効果が発揮される一方、流動性が相対的に劣る通貨スワップやオプションについては、バイサイドがコストを払って為替取引を電子化するメリットは一部に限られてしまう。
日本銀行金融市場局為替課長の重本浩志氏は、電子取引のメリットは商品や取引ニーズに応じて異なると指摘する。「一般的に『実需筋・機関投資家』と呼ばれる市場参加者と違い、高頻度の反対売買を繰り返す『HFT(高頻度取引)』にとって為替取引のスプレッドのタイトさは収益に直結するが、東京外国為替市場には相対的にこうした参加者が少なく、これが国内で電子取引がリテール以外では広まりにくいひとつの要因であったかもしれない」と分析する。
ただ、グローバルに目を転じると、東京市場の特徴ばかりをいっていられない現実もある。2013年に発覚した外国為替市場における指標レートの不正操作疑惑に端を発した、BIS(国際決済銀行)傘下の作業部会による「FX Global Code(グローバル外為行動規範)」の制定だ。この行動規範は、外国為替取引において遵守すべき原則を定めたものであり、為替市場の参加者一人ひとりのモラル(倫理)を含め、外国為替市場の透明性や公平性の向上を求めている。
「『日本で不正があったわけではないので対応する必要性は薄い』という考え方では、世界の潮流に乗り遅れ、グローバルな性格を有する為替取引で日本のシェアを落とすことになりかねない」と重本氏は語る一方、「記録が残る電子取引は取引コスト分析も容易で、取引の公正性の確認にも使われる。顧客にとって総合的に利便性の高いツールであれば、今後ニーズが高まる可能性があるかもしれない」とも話す。
AIで収益をねらうノウハウも
日本銀行は、中央銀行として別の観点も持っているという。外国為替市場でどのように価格が形成され、そこに電子取引がどのような役割を果たしているかという視点だ。一般論でいえば、為替取引の電子化は市場を効率化し、価格形成をスムーズにする。
「近年、市場価格の急変動(いわゆるフラッシュイベント)が発生した際、人間がマーケットマーカーであればある程度市場を支えるが、電子・機械取引であると価格が極端に動いてしまうとの懸念も聞かれた。その是非はともかく、多数の取引プラットフォームが存在する為替市場において、取引の過半が電子化されている現実を踏まえ、何が従来とは変わったのかを考えていく必要がある」(重本氏)。
重本氏は、為替取引の電子・機械化がセルサイドのビジネスモデルを大きく変えつつあるとも指摘する。「従来、外為市場に流動性を提供してきたのは銀行だった。しかし、電子化の進展と多様な参加者の参入とが相まって売り買いのスプレッドが薄くなると、顧客のオーダーを市場でカバーするエージェント的なビジネスモデルだけではスポット取引で収益を上げることは難しくなり、両方向のオーダーを内製化することによって収益を確保しようとする傾向が強まる。そのため、プライシングからリスク管理まで、AI(人工知能)やアルゴリズムと呼ぶかどうかはともかく、テクノロジーの活用が今後ますます進む」とみている。