伝統的資産と低相関の森林農地投資。良好なファンダメンタルズが追い風

西田友矩氏と高橋孝行氏
マニュライフ・インベストメント・マネジメント
機関投資家営業部 ディレクター
西田 友矩氏(左)
機関投資家営業部 ディレクター
高橋 孝行氏(右)

森林農地の市場規模は、森林が3440億米ドル(約44兆3760億円)、農地が1兆9360億米ドル(約249兆7440億円)と推定される。森林・農地の取得と管理を通じて、木材や農作物の育成・販売を源泉とするインカム・リターンと、物件価格の上昇によるキャピタル・リターンが期待できる。

「主に開発済みの大規模な森林や農地への投資により、相対的に低ボラティリティで、安定的なトータルリターンと、レバレッジなしでの中程度のインカムが魅力だ」(高橋氏)。

世界的な人口増加を背景に、木材や食物は中長期にわたる消費量の増加が見込まれる。森林投資では、木材・住宅建設のニーズ拡大が長期的に予測される上、足元では新型コロナの感染拡大を契機に米国を中心に住宅の新築・増改築が増えていることが好材料になっている。

農地投資も、米や小麦をはじめとする穀物などのほか、経済成長とともに、肉や果物、ナッツなどの高付加価値の贅沢品や嗜好品に食習慣がシフトする傾向もあるため、穀物類などの一年生作物および果物やナッツなどの永年作物ともに今後の需要は堅い。

足元の物価上昇の影響について、同社機関投資家営業部ディレクターの西田友矩氏は「世界的なインフレで、木材や農作物の価格が上昇し投資の追い風となっている。

一方で、エネルギーや投入財のコストも上がっているが、森林農地を含むリアルアセットは長期間の投資を通じて、モノの価値の上昇がパフォーマンスに還元される」とインフレヘッジによる資産保全効果への見解を示す。ESGへの貢献が分かりやすいのも森林農地投資のユニークな点だ。

「森林や農地という自然資本を投資対象とするため、サステナビリティが大前提となる。木の伐りっぱなしや、焼き畑農業では投資のリターンは続かない。リターンを継続的に獲得しながら、森林は減らさず、農地のクオリティを維持・改善していくのが当社の運用だ」(高橋氏)。

同社は、インパクト(社会への良い影響)をより重視し温室効果ガスの吸収量拡大を目指す「森林インパクト投資」を2022年後半に商品化する計画だ。

「インパクト重視の森林投資は積極的な社会貢献やネットゼロを目指す金融法人からの引き合いが強い。35年超にわたる森林運用・管理の経験と実績を活かし、当戦略ではカーボンクレジットの獲得も投資目標としている。脱炭素の加速によりクレジットが活発に取引されるようになれば価格上昇も視野に入る。ネットゼロに貢献できるナチュラル・クライメート・ソリューションとしての森林農地投資への注目が高まる環境だ」(西田氏)。

三井住友トラスト基礎研究所が国内不動産を対象に不動産私募ファンドを組成・運用している運用会社に実施した「不動産私募ファンドに関する実態調査」(2022年1月)では、2021年下半期の物件売却は19.4%と調査開始以降最も低水準と、物件取得競争は依然厳しい環境が続いている。

米倉氏は、「各ファンドは物件の入れ替えを極力行わず、取得物件を長期運用し、運用資産残高の拡大を図る考えがスタンダードになっている」と推察する。国内の投資機会が減少するなか、機関投資家の投資意欲は海外へも向かっている。

前田氏は、「そうは言っても、海外不動産投資は為替リスクのコントロールが難しく、国内投資とは違った投資ノウハウも求められる。また金融機関にとってはBIS(国際決済銀行)規制やボルカールールも考慮すると採用は難しい。

そのため、私募ファンドよりは流動性があり、運用期間も長い国内の私募REIT(不動産投資信託)投資に機関投資家の関心が集まる傾向が継続している。実際、年金基金による投資は先行銘柄を中心に一巡した側面はあるが、42銘柄ある私募REITのうち後発銘柄にも地方金融機関などの関心の高さは継続している」と話す。

「私募REITは安定的だが利回りは不動産投資商品のなかで見れば高くはない。リスク許容度によるが、レバレッジを高めて利回り確保を狙うか、低リスクでコツコツ利回りを稼ぐか、判断が分かれるところだろう」(米倉氏)。

同じ戦略でもパフォーマンスは「プラス40%」と「マイナス20%」

年金基金が一般に選好する不動産投資戦略は安定性を重視したコア型や私募REITだが、エッジの利いた運用を行う大和ハウス工業企業年金基金はどちらもほぼ投資しない。

山根透氏
大和ハウス工業企業年金基金
運用執行理事
山根 透

長年のリレーションで築いたグローバルの情報網や母体グループのネットワークを通じて、オフマーケットの不動産ファンドやインフラファンドを中心に投資するという。

同基金運用執行理事の山根透氏は、「供給不足と言われる国内不動産でも、海外のマネージャーがオフマーケットで入手することがある。そうした案件は個別に当社に持ち込まれる」と明かす。

同基金はオルタナティブ枠に不動産を分類しており、そのなかにデットも含めている。インフラはPE(プライベート・エクイティ)の一つの戦略と捉え、オルタナティブ枠のPEに区分。不動産ファンドの投資地域は北米が50%、欧州が35%、残りが日本を含むアジアだ。

「例えば、今保有しているドイツの不動産デットファンドは、マネージャーが入れているエクイティ(自己資本)が毀損するまで我々は損失額を負担しない安全性の高いストラクチャーで、リターンは7~8%。円とユーロの金利差は昨今非常に小さく、為替ヘッジをかけてもコストがほとんどかからない。米国の場合はヘッジコストがかかるため、目標リターンは2ケタなければ投資しない」(山根氏)。

低流動性ファンドではハイクオリティのプレーヤーに投資しなければ好パフォーマンスは獲得しにくい。山根氏は「特にクローズドエンド型ファンドは、同じ戦略でも上位層はプラス30~40%のリターンを創出するのに対し、下位層はマイナス20%という世界」と語る。

同社がインフラや不動産デットで積極的に投資するのはグリーンフィールド(新規開発)型の案件だ。

「不動産デットの場合、デュレーションは3~4年程度。インフラの場合、開発期間に加えて安定稼働に至るまでの保有期間があるためデュレーションは比較的長くなる。デフォルトへの備えとしては、プレーヤー選びが明暗を分ける。フィナンシャルプレーヤーは担保で回収した物件を転売するしか手段がないが、不動産運営なども対応可能なプレーヤーは最終的にデフォルト前より好成績を残すことも。当社が過去に投資していたデフォルト開発案件は、当初より開発期間が延びたものの、グループのオペレーション力を活かした結果リターンは30%台と、目標リターン10%台を大きく上回った」(山根氏)。

山根氏は投資の分散だけでなく、エグジットも分散すべきだと主張する。

「安定的にキャッシュフローを享受できる不動産やインフラはクローズドエンド型の場合ギリギリまで保有したがる傾向が強いが、一定のバリューで売却できる機会があれば積極的にエグジットしてほしい。テールリスクに対して『延長期間を設けているから問題ない』というマネージャーもいるが、最初からそれを当てにしたオペレーションはしてほしくない」。

オポチュニスティックな投資を厳選する同社の2022年3月期のPEおよび不動産ポートフォリオは500億円弱の黒字を計上し、ポートフォリオマネジメントに腐心している。

不動産市場とインフラ市場は機関投資家の緩和マネーの受け皿として、2021年に引き続き2022年も力強い成長が期待される。社会情勢の変化に伴い運用の高度化が求められるなか、ポートフォリオの許容リスクを少しずつ増やすことで選別眼が養われ、優秀なマネージャーからアプローチが舞い込む好循環が生まれるのかもしれない。