ハイトマン 安定したリターン創出とディフェンス力。伝統的なレンダーに代わる私募不動産デット
不透明な世界情勢下で、インフレと金利上昇が進むなか、安定的なキャッシュフローが期待できる不動産デットに注目が集まっている。520億ドル(約6兆6000億円)の資産をグローバルに運用する不動産投資顧問ハイトマンのデービッド・マキ氏に米国の私募不動産デットの市場動向と投資魅力を聞いた。(取材日:2022年5月26日)
物件とボロワーの見極めで不透明な市場環境もチャンスに
2000年代後半の世界金融危機以降の継続的な規制強化により、伝統的な商業銀行は不動産への融資を縮小してきた。一方で、不動産市場における資金需要は変わらず旺盛であり、代わって不動産デットファンドなどの非銀行レンダー(貸し手)が第二の資金源としての存在感を高めている。
ハイトマンのシニア・マネージング・ディレクターで、不動産デット投資チームの共同責任者を務めるデービッド・マキ氏は「規制強化に加え、柔軟性のある融資形態を望むボロワー(借り手)が増加したことも非銀行レンダーの利用増加の背景にある。近年米国では私募不動産デット市場の成長とともに、その資金の出し手である機関投資家、貸出先の両者のクオリティが上がってきた」と説明する。
新型コロナウイルス禍やウクライナ危機の影響で、複雑かつ先行きの見通せない状況が続くが、マキ氏は「不確実性が高いことは必ずしも悪条件ではない。物件やボロワーを見極める力があれば、市場環境のボラティリティは、ほかの競合に比べて大きな投資機会になりうる。不透明で非効率な市場でこそプライベートレンダーは真価を発揮できる」と語る。
リスクの緩衝効果を内包しダウンサイドへの耐性を発揮
世界で加速する物価上昇に対し、利上げや量的緩和策の縮小に向かう動きが出始めている。インフレと金利上昇により、債券への投資妙味が薄まることが予想されるが、例えばハイトマンの私募不動産デット戦略は、変動金利によるローンを拠出しそこから得られる金利収入を主なリターンの源泉とするため、金利上昇局面においてリターンの上昇が期待できる。
「ベース金利に、①不動産のクオリティ、②借り手のクオリティ、③ローン・ストラクチャー──の3要素がプラスアルファのスプレッドとして上乗せされ、金利の上昇とともにリターンに跳ね返ってくる」(マキ氏)。
さらに、高いディフェンス力も魅力だ。デットは、エクイティのように大きなキャピタルゲインはあまり期待できない半面、返済の優先順位が高い。景気後退などで収益が悪化した際、エクイティ、メザニン、シニアローンの順に価値が毀損するリスクの緩衝効果の存在が下方リスクを抑え、長期・安定的なキャッシュフローが見込めるという。
【図表】エクイティ価値毀損の局面でも、下方リスクを抑えて固定リターンを獲得できる不動産デット戦略
ハイトマンが運用するオープンエンドの米国私募不動産デット戦略では、そうした特性を活かして不動産価格の下落への抵抗力は維持しながらも、保守的な水準のレバレッジを用いて1ケタ後半のリターンを狙う。
「市場サイクルを通じて安定したリターンが創出できると考えている。不動産専門で培った知見と実績を基に、投資家の意識が向いていない物件にも目を配り、物件タイプごとにどういったリスク・リターンがあるのかを見極め、投資機会を狙っていきたい」(マキ氏)。
マーケット全体でエクイティからデットへポジションを変更する動きも見られることから、今後も私募不動産デット投資市場は大きな広がりをみせそうだ。
「ここ数年は不動産エクイティ市場が好調だったが、今後の高い成長が見込みにくくなったことで、投資家は下方リスクが限定される安定的な収益源を求めているようだ。また、従来は『不動産』と『債券』の投資枠は別々に捉えられていたが、プライベートデットに新たな投資枠が生まれ始めていることも、私募不動産デットの後押しとなっている」(マキ氏)。