住友信託銀行と中央三井トラスト・ホールディングスが2011年4月に経営統合する。銀行セクター担当アナリストと国内外の信託銀行への取材をもとに、「3メガ信託時代」に突入した国内信託業界の今後を占う。(柴田哲也)

「全方位」型と「選択と集中」型

日本の信託ビジネス業界は、経営規模や取扱業務などから大きく4つのグループに分けられる。第一が法人・個人双方にサービスを提供する大手信託銀行、第二が信託機能を持つ地方銀行など、第三が2004年の信託業法改正を機に新規参入した信託会社など、第四が特定サービスに強みを持つ外資系信託銀行である。

このうち、第一グループの住友信託銀行と中央三井トラスト・ホールディングスが経営統合する。実際の統合プロセスは2段階に分けて実施される予定だ。

まず、両社は2011年4月、中央三井トラスト・ホールディングスを存続会社として統合し、新たな持ち株会社「三井住友トラスト・ホールディングス」を設立する。続いて専門性と総合力を強化するため、2012年4月に持ち株会社傘下の住友信託銀行、中央三井信託銀行、中央三井アセット信託銀行を統合する方針となっている。

両社は信託銀行としてのスタンスが似通っている面がある【図表2】。三菱UFJ信託銀行やみずほ信託銀行と比較すると、信託銀行の基本業務ともいえる信託関連の収益比率が相対的に低く、預貸金業務や不動産関連収入の割合が高めだ。「住友信託はいわば『商業銀行込みの全方位』タイプといえるだろう。2004年の公的資金返済後、資本の有効活用の観点からM&A(合併・買収)を積極的に進めてきた。中小企業融資や不動産ファイナンス、リース、海外投融資など多岐の分野にわたったが、その多くが裏目に出て、2007年3月期~2009年3月期は収益が悪化した。その後の債券トレーディング収益の好調などで財務基盤の安定度は高まっている」(バークレイズ・キャピタル証券株式調査部アナリストの田村晋一氏)。

統合相手の中央三井トラストは、住宅ローン、不動産業務、財産管理業務、個人年金・投資信託販売、不動産ファイナンスに力を入れるなど「選択と集中」が特色といえそう。「同社は注力業務を1年ごとに見直す傾向がある。2006年からは不動産ファイナンスに消極的になり、2009年3月期には熱心だったオルタナティブ運用も縮小している。財務基盤の安定度は高まっているが、約2000億円の公的資金返済がボトルネック。公的資金は2009年8月に普通株転換したものの、株価が転換価格の400円を上回らないと返済が進まない」(田村氏)。

不動産市況の低迷が影を落とす

今回の三井住友トラスト誕生で、国内信託業界は三菱UFJ信託、みずほ信託との“3メガ信託時代”に突入した。企業間競争はいよいよ激化と思いきや、表面上は意外なほど静かだ。

「経営統合を一言でまとめると『サプライズなし』。統合比率は両行の株式時価総額の違いをほぼ反映した住友信託1.49:中央三井トラスト1で決着した。業界内では以前から経営統合は時間の問題と見られていたし、統合後のトップ人事も想定内。業界独特のおっとりとしたカルチャーも、大きな摩擦もなく、統合作業がスムーズに見える一因と考えられる」(田村氏)

さらに信託ビジネス全体が踊り場に差しかかっている点も盛り上がりに影を落としているとの指摘もある。まず、不動産市況の低迷。2008年秋のリーマン・ショックを境にマーケットが冷え込むと、証券化の主要プレーヤーである信託銀行の不動産関連収益は落ち込んだ。

信託業界は2004年と2007年の2度の法改正でルールが大きく変わったが、景気の落ち込みやリスクマネーの先細りなどの影響で、現時点では当初見込みほどの成果が上がっていない点も見逃せない。特に2004年の信託業法改正では受託可能財産の範囲が広がり、従来までの金銭や土地に加え、知的財産権などの受託も可能になった。

加えて信託業務の担い手を事業会社やノンバンクにも拡大。その結果、コンテンツ制作支援会社やリース会社などが新規参入を果たした。「信託ビジネスにはいろいろ手法があるが、信託という名のハコで財産管理して、その見返りに手数料や信託報酬を得るという基本スキームは同じ。このスキームがベースとなる信託業務は一種の装置産業であり、一定以上の規模がないと収益を上げることが難しいといえる。2度の法改正でニッチプレーヤーは出てきたが、業界の大勢は変わるほどのインパクトは、残念ながら今のところは見当たらない」(田村氏)。