資産運用において透明性の確保に努める動きが増している。5年超の実トラックを有する『世界インパクト投資ファンド』の運用事例やトレンドをまとめたアニュアルレポートを発行する三井住友DSアセットマネジメントに、求められる基準などを聞いた。
(取材日:2021年11月5日)

三井住友DSアセットマネジメント
グローバルパートナー運用部
シニアマネージャー
高橋 陽平氏(左)
機関投資家営業部
シニアマネージャー
南 慶吾氏(右)

「水問題」がパフォーマンスに寄与

インパクト投資の指標や測定について。

 社会的課題の解決とリターンの同時実現に加えて、社会課題への効果測定まで行うインパクト投資は、現代の機関投資家が社会的使命や受託者責任を果たすために不可欠な投資戦略の一つになりつつある。

高橋 当社の『グローバル・インパクト運用戦略』は2015年9月の運用開始来、一貫して独自の「投資対象企業が与えるインパクト測定のロジックチェーン」を用いている。測定した投資対象銘柄のインパクトを取りまとめたアニュアルレポートは、投資ハイライト(社会課題への貢献度合い)や、「衣食住の確保」「生活の質向上」「環境問題」の3つの分野からなる11の投資テーマに対するインパクト企業例などの情報を盛り込んでいる。

2020年の総括レポートでは、例えば、「住居の確保」のテーマで簡易型プレハブ住宅事業の米サン・コミュニティーズ社を挙げた。KPI(重要業績評価指標)として、低所得層の276コミュニティに9万6688戸の低価格住宅の提供を目標とする。「水問題」では、総合水処理エンジニアリングの米大手エヴォクア・ウォーター・テクノロジー社を取り上げた。約3万8000件の顧客の約1382億㎥分の水浄化処理が目標だ。

従来はリターン向上にあまりつながらなかったテーマの水問題だが、足元では最もリターンを生み出した。ファンドのパフォーマンスを支える銘柄も多様化してきている。

厳しいスクリーニング基準を遵守

ESG(環境・社会・企業統治)/インパクト・ウォッシングなど実態が伴わないアプローチも横行する中、本物を見極めるには。

高橋 マザーファンドを運用するウエリントン社ではサスティナブル・インベストメント・リサーチチームを設けており、ヘッドを務めるウェンディ・クロムウェル氏は国連PRI(責任投資原則)のボードメンバーに選出されている世界の運用会社2名のうちの1人だ。

ウォッシング判定基準の1つに有用なのは、2021年3月に欧州で制定されたSFDR(サスティナブルファイナンス開示規則)だろう。最も厳格な第9条(ダークグリーン)の適用条件に「客観的基準に基づいた計測と報告が可能であること」とある。当ファンドのマザーファンドと同様の運用戦略『Wellington Global Impact Fund』は第9条適用で、厳しい組入基準やインパクト計測の継続、精力的な情報開示などを行っている。

スクリーニング基準は、インパクト事業が該当企業の中核事業( 50%以上)を担っていることと明記している。では、大企業に買収された場合は。

高橋 2021年4月、有望な組入銘柄の音声認識技術を手掛ける米ニュアンス・コミュニケーションズが米マイクロソフトに買収されることが決まったため投資対象から除外した。リターンに寄与するからと基準に反して保有し続けることは、当プロダクトの投資哲学とは異なる。

 機関投資家からは、①確立された運用哲学と運用プロセス②設定来から着実な超過収益を生み出しているパフォーマンス③インパクト投資の中でも極めて長い5年超の実トラック期間④インパクトレポートを通じたファンドの社会的インパクトの定量面のフィードバック体制――を満たすファンドとして評価いただいている。

高橋 ESG投資の浸透やSDGsの認知度が高まり、インパクト投資の市場規模は拡大を続けている。こうした潮流の恩恵がどうパフォーマンスに寄与するか、今後の成長が楽しみだ。