新型コロナの感染縮小を受けて人流は急回復

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

国内の新型コロナウイルスの感染者数は2021年9月の中旬頃から急速に減少し、足元でも抑制された状態が続いている。ピーク時(8月下旬)に25000人を超えていた1日当たりの新規感染者数は、足元では100人前後に抑え込まれている。ワクチン接種の効果が背景にあるが、米欧と比較して短期間に集中して接種が進んだことによる効果が大きいと指摘されている。多くの国民がほぼ同時期に抗体を有することで感染が抑えられていると考えられる。

こうしたなか人々の外出への安心感が広がっている。人の移動の変化を指数化した「グーグル・コミュニティ・モビリティ・レポート」によると、小売店・娯楽施設への訪問者数のベースラインからの変化率は、新型コロナの感染が急拡大した8月半ばから9月上旬にかけて20%以上落ち込んでいたが、緊急事態宣言が解除された10月以降はマイナス幅が徐々に縮小、足元ではコロナ前の水準近くまで回復している(図表)。東京など大都市圏では混雑を避ける傾向が根強いが、地方圏ではコロナ前を上回る水準まで回復している。

【図表】小売店・娯楽施設への訪問者数のベースラインからの変化率

図表
(出所)グーグル・コミュニティ・モビリティ

個人消費に持ち直しの動きが広がる

人流の回復を背景に個人消費は持ち直している。外出機会の増加で衣料品販売が回復しているほか、外食需要も上向いている。日本フードサービス協会が発表した2021年10月の外食産業売上高は前年同月比0.5%減と、前月(8.2%減)に比べてマイナス幅が大きく縮小した。10月25日からは東京都や大阪府の時短営業要請が解除されており、足元では回復の動きが一段と広がっているとみられる。

旅行需要も持ち直している。2021年10月の延べ宿泊者数(日本人)は、前年同月比1.3%増とプラスに転じた。「GO TO トラベル」の効果で上向いていた2020年との比較である点を考慮すると、統計が示す以上に底堅い結果だったといえる。サービス消費の回復を受けて、2021年10~12月のGDP(国内総生産)ベースの個人消費も高めの伸びが見込まれる。

新型コロナの感染状況が年明け以降の個人消費のカギを握る

もっとも、新型コロナウイルスの感染が収束したわけではない。実際、本格的な冬を迎えた欧州では新型コロナの感染が再拡大している。特にドイツでは感染者数が過去最高の水準まで増加し、フランスやイタリアでもここにきて感染者数が急増している。EU(欧州連合)全体のワクチン接種完了率は67%に達しているが、ワクチン接種だけでは感染抑制効果に限界があると考えられる。また、2021年11月末には、新たに変異した「オミクロン型」のウイルスが発見され、世界中で拡散している。「オミクロン型」に対する既存ワクチンの有効性は低いとの見方もある。

人の移動が増える年末年始以降、国内でも感染が広がるリスクがある。政府は2022年1月中旬から「GO TO トラベル」の再開を検討しているが、感染状況によっては再開が見送られる可能性がある。再開が見送られた場合には、宿泊旅行への影響にとどまらず、感染再拡大への警戒感から家計の消費活動全般が慎重化することも考えられる。