SIDE STORY オルタナティブ資産に期待される役割はリスク分散とボラティリティの軽減
金融専門誌『J-MONEY』の取材時の印象深いエピソードなどを紹介する本コーナー。今回は、「J-MONEY2021年10月号掲載の『機関投資家のポートフォリオ戦略』10周年記念特集」で収めきれなかった昨今の運用トレンドなどを、Preqin リサーチ&データオペレーションの伊藤夜風氏の話を基にまとめた。
オルタナ市場は2025年までに17.16兆米ドルに拡大か
新型コロナウイルスの感染拡大で金融市場にも多様な変化が見られる中、オルタナティブ市場は引き続き機関投資家からの強い関心を集めている。オルタナティブ市場の運用資産残高(AUM)は、2020月12時点で約12.51兆米ドル(約1376兆円)となり、2019年末から1年で9%増加した。
パンデミックの渦中でもオルタナティブ資産の価格調整は限定的であり、また、プライベートエクイティ(PE)をはじめとする一部の資産にはその後力強い回復が見られる。変異株をはじめとする様々な不確実性が残る中、機関投資家はリスクの分散とボラティリティの軽減をオルタナティブ資産に期待している。
Preqin リサーチ&データオペレーションの伊藤夜風氏は、「我々は、今後ともオルタナティブ投資への関心は強まり、オルタナティブ市場のAUMは2025年までに17.16兆米ドルに達すると予測する」と話す。オルタナティブ投資は10年、20年スパンでの長期投資が基本だ。大局的な見地から言えば、機関投資家のオルタナティブ投資に対する姿勢に大きな変化はない。Preqinでは年に2回、世界中の投資家を対象にサーベイを実施している。最新の調査結果(2021年6月実施)によると、引き続きインフラ、PE、プライベートデット(PD)への引き合いが強いことが分かっている。インフラへの資産配分を増やすと回答した機関投資家の割合は51%と最も多く、PE(43%)とベンチャーキャピタル(43%)、PD(39%)がそれに続く。
【図表】向こう1年のオルタナティブ資産投資状況
各国政府による大幅な金融緩和と経済対策により、2020年の株式市場は大相場をつけた。2021年に入りグロース株は落ち着きを見せたが、株式のバリュエーションは全体的にまだ高い水準にある。また、住宅や物流施設をはじめ、不動産価格も過熱気味の状況が続く。新規の投資については高値掴みを避けることが重要となる。
一方で、インフラやPDに関しては、「資産を巡る競争の激化」が最大の課題と考えられるという。「同アセットクラスには近年急速に資金が流入したため、ドライパウダー(待機資金)が蓄積している。PEや不動産に比べると投資可能なユニバースは限定的と言え、競争の激化は必須だ。また、これらのアセットクラスはインフラ整備に関わる国の政策や規制、金融当局からの規制によっても投資環境が大きく変化する」(伊藤氏)。近年では中国やアジアにおけるPD機会に注目が集まっており、これらの市場においては「地政学リスク」や「規制」が機関投資家の懸念となろう。