設備投資の回復を支えに4~6月期はプラス成長の公算

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

2021年4月25日に発令された3回目の緊急事態宣言(6月25日解除)の影響で、4~6月期の個人消費は低調な動きが続いた。特に、行楽シーズンである5月の大型連休が対象期間となった影響は大きく、宿泊旅行や外食、レジャーなどサービス消費が振るわなかった。

また、半導体不足に伴う自動車メーカーの生産調整を受けて納車が遅れたことも耐久財消費の押下げ要因となった。ただ、前回のレポートでも言及したように、設備投資の回復と輸出の拡大が寄与し、4~6月期の実質GDP(国内総生産)は小幅ながらプラス成長に転じる見通しである。

欧米の回復に後れを取る日本経済

日本経済は度重なる緊急事態宣言の発令にもかかわらず、景気の底割れを回避しているものの、欧米経済に比べると回復の動きは弱い。新型コロナウイルス禍前の2019年の実質GDPを100とした指数でみると、経済活動が正常化しつつある米国との格差が拡大しているだけでなく、新型コロナの感染拡大で深刻なダメージを受けたユーロ圏にも2021年4~6月期で逆転されたとみられる(図表)。

【図表】2019年を基準とした日米欧の実質GDP水準

図表
(注)2021年4~6月は米国とユーロ圏は実績、日本は予測値
(出所)内閣府、米商務省、ユーロスタット

最大の要因は日本のワクチン接種の遅れにある。米国では2021年前半にワクチン接種が進展した。人口100人当たりのワクチン延べ接種回数は、2021年4月に感染抑制効果が出始めるとみられる60回に達した。EU(欧州連合)は米国に比べてやや遅れたものの、同年6月上旬に60回を超えた。7月末の延べ接種回数は米国が103回、EUは105回に達している。

一方、日本は5月の連休明けから接種が本格化したものの、60回に到達したのは7月後半と欧米に比べて大きく出遅れた。欧米では2021年春頃から徐々に活動制限の緩和が進み、外食や旅行などサービス消費が急回復するなどワクチンの普及が景気回復に大きく寄与している。

デルタ型の感染拡大で欧米との景気回復格差はさらに拡大

国内のワクチン接種も着実に進んでいるものの(7月末時点で69回)、ここにきて感染力の強いインド型変異株(デルタ型)が拡大し、新規感染者数が急増している。8月2日からは東京都と沖縄県に加えて4府県が緊急事態宣言の対象となり、宣言対象地域は今後さらに拡大される可能性もある。

従来型のウイルスであれば、ワクチン効果は延べ接種回数が60回を超えた2021年の夏から顕在化し始めるとみていたが、感染力の強いデルタ型が出現したことで、感染を抑制するためのワクチン接種率のハードルは上がっている。少なくとも現時点の米国やドイツと同水準(100人当たり延べ接種回数で110回程度)まで接種を進める必要がある。日本の個人消費は2021年後半にかけて大きく回復すると想定していたものの、ワクチンによる感染抑制効果の後ずれで7~9月期も前期比でマイナスとなる可能性が高まっている。

米国や欧州の一部でもデルタ型の感染が拡大しているが、ワクチン接種が進んでいることから感染が広がっても医療体制のひっ迫には至らない見通しで、現時点では厳しい行動規制に踏み込む動きはみられない。感染拡大への警戒感が家計のマインドに影響する可能性はあろうが、経済活動全体への影響は限定的にとどまろう。デルタ型の拡大は、ワクチン接種が進んだ国と日本やアジア諸国など接種が遅れている国との景気回復格差をさらに広げる可能性がある。