J-MONEY Onlineの寄稿執筆陣の一人でもある京都大学客員教授 京大ESG研究会座長の加藤康之氏はこのほど、アダム・マシク氏、エヴァ・レチマン氏との共著で『アジア太平洋地域におけるETF市場の勃興』(原題:The Emergence of ETFs in Asia-Pacific)を出版した。

金融商品を高速ネットワーク上で取引

経済的に多様化したアジア太平洋地域は様々な分野で急速な成長を遂げている。この地域はそのダイナミックな発展だけでなく、世界の経済成長の大部分がこの地域で生み出されているという事実のために、世界的な関心の的になっている。さらに、アジア太平洋地域の金融市場では急速で重要な変化が起こっており、間違いなく、この地域の金融市場は世界の中でその重要性を増している。

「経済および金融構造の急速な変化に加え、アジア太平洋地域は、デジタル技術の開発、利用者数、および使用量において世界をリードしている。ITU(国際電気通信連合)の2020年の推定によると、2019年の携帯電話の平均普及率は110%、モバイルネットワークは90%近くあり、全人口の50%以上が自宅でインターネットを使用している。アジア太平洋地域におけるICT(情報通信技術)の急速な普及は、高速ネットワーク上で取引可能な金融商品を導入するための重要な前提条件を構成している。実際、過去数年間にETF(上場投資信託)などの金融商品の利用が急速に拡大している」(マシク氏)

The Emergence of ETFs in Asia-Pacific(表紙)
『アジア太平洋地域におけるETF市場の勃興』(原題:The Emergence of ETFs in Asia-Pacific)加藤康之氏、 Adam Marszk(アダム・マシク)氏、Ewa Lechman(エヴァ・レチマン)氏共著

日本、中国、韓国がけん引

伝統的な投資信託とは対照的に、ETFは証券取引所で上場企業の株式などと同じ方法で手軽に取引できる。ほとんどのETFは証券インデックスにリンクしているため、インデックスデリバティブに近い。

「アジア太平洋市場におけるETF市場の特徴はいくつかの理由で興味深い。たとえば、金融セクターにおける銀行の支配や一部の株式市場の比較的高いボラティリティである。もう1つは商品、特に金に関連する金融商品の人気やレバレッジのある金融商品に対する高い需要である。過去数年間にETFが取引されたアジア太平洋地域のすべての市場を調査したところ、これらの金融商品の売買高が大幅に増加しており、日本、中国、韓国がこの地域のリーダーとなっている。一方、この地域の残りの市場ではETFの開発に関してはやや遅れをとっている」(レチマン氏)。

アジア太平洋地域でETFがますます目立つようになっていることを考えると、市場の発展を後押しあるいは制限する要因を分析することは非常に重要といえるだろう。

加藤氏は、「分析の結果、新技術が金融市場の発展に大きな影響を与え、ETFなどの新しいICTベースの金融商品の出現を可能にすることが強く確認された。ETFとICTの間の相互影響メカニズムには、金融サービスへのアクセスの増加やフィンテック業界の発展も含まれる」と指摘する。