日本政策投資銀行 代表取締役社長 橋本 徹氏 メザニンレンダーとしての役割果たし、他の金融機関とのリスクシェアを図る
政府系金融機関の日本政策投資銀行(以下、DBJ)は、産業金融の中立的な担い手として民間金融機関と異なる事業領域をカバーしている。DBJのこれからの事業戦略、目指す理想の金融機関像などについて代表取締役社長の橋本徹氏に聞いた。(工藤晋也)
PPP、PFI 事業の支援でインフラ老朽化対策を後押し
このたび発表した2016年度までの第3次中期経営計画で、「『課題先進国』日本の持続的成長に貢献」を目標に掲げている。
橋本 日本は少子高齢化やインフラ・エネルギー問題、地域の活性化など、他国がいまだ経験したことのない課題に直面する“課題先進国”である。当行は日本の持続的成長に向けて「良質なリスクマネーの供給」と「独自のナレッジ(知的サービス)の創造・提供」の推進により、多様な金融プレイヤーとともに円滑な市場を形成し、さまざまな課題の解決に尽力していく考えだ。
第3次中期経営計画で重点的に取り組んでいく課題は。
橋本 1つが「成長への貢献」だ。日本企業の国際競争力の強化には、経営資源の活用を含めた企業の新たな事業創造や事業再編、M&A、グローバル化の支援が欠かせない。
2014年1月に住宅設備大手のLIXILが欧州の水栓金具大手のグローエを買収した際、資金やコンサルティングといった面でサポートしたが、今後も資金供給やナレッジの提供で日本企業の成長をアシストしていきたい。
「地域に応じた活性化」も重点課題だ。当行の取引先の約半数が地方の企業であり、経営基盤の強化やまちづくり、インフラ更新などに資することで地域活性化を進めている。事例としては「地域元気プログラム」という各地域の発展をけん引する企業などの成長を資金や人材、情報面から支える取り組みがある。
「セーフティーネットの強化」にも力を入れていく。当行ではこれまで培ってきた情報やノウハウ、審査力を活かして危機対応業務などを手がけており、金融危機対応では累計3.3兆円、東日本大震災対応では累計1.9兆円を融資した。
被災企業の再建支援も行っており、岩手、宮城、福島、茨城4県の地域金融機関と計200億円の東日本大震災復興ファンドを組成。地元の実情に詳しい地域金融機関と、リスクマネー供給に精通した当行のノウハウを融合し、映画『フラガール』の舞台として有名なスパリゾートハワイアンズを運営する常磐興産をはじめ、数々の被災企業の早期復興を後押しした。
インフラの老朽化や東日本大震災後のエネルギー問題も喫緊の課題になっている。
橋本 インフラやエネルギーも我が国の未来を考えるうえで欠かすことのできない課題だ。インフラ分野に関しては老朽化が懸念されており、更新・維持管理するだけの資金的余裕がない自治体に代わって民間の資金やノウハウを活用するPPP(官民パートナーシップ)やPFI(民間資金を活用した社会資本整備)のスキームが注目されている。
当行では1999年のPFI法施行後、初のPFI事業への融資を行うなど、これまで数々のPPPやPFI事業の取り組みを支えてきた。その1つが羽田空港国際線旅客ターミナルの案件である。
国内初の基幹交通インフラのPFI事業であり、当行はみずほ銀行や三菱東京UFJ銀行とともにリードアレンジャーを務めた。航空需要や商業需要などを踏まえた弾力的なファイナンススキームの構築により、着工から30年という長期にわたる事業をサポートしていく。ほかにも京急蒲田駅の連続立体交差事業や東京・大手町の連鎖型再開発事業なども行っている。
一方のエネルギー分野では東京電力への融資を通じて同社の被害者への賠償や福島復興、汚染水対応を含めた廃炉、事故収束、電力安定供給などの取り組みを支援している。