さらなる回復には需要喚起策がカギ

新井 洋子
三菱UFJモルガン・スタンレー証券
チーフ・グローバル投資ストラテジスト
新井 洋子

世界経済の行方は、新型コロナウイルスによるパンデミック(大流行)の動向にかかっている。中国に端を発し、2020年3月以降、世界中で猛威を振るった新型ウイルスはここにきてやや沈静化し、経済活動再開の動きが広がっている。世界的に外出制限が集中した同年4月の落ち込みの影響から、4~6月期の世界経済は成長率の大幅低下が必至だが、感染第2波を回避できれば、7~9月期以降は回復に向かうだろう。

ただし、正常化への道のりは平坦ではない。各国は感染対策で導入した規制措置の緩和に動いているが、その多くが社会的距離の確保や建物内の収容制限などを活動再開の条件としている。人々の間にも、感染への不安が残り、パンデミック発生前の日常を取り戻すには時間がかかるだろう。政府にとっては、感染状況に目を光らせながら、制限緩和と状況に応じた再強化を駆使し、感染抑制と景気浮揚のバランスを取るという難しい舵取りが求められる。

世界の株式市場は、2020年3月後半以降、実体経済の悪化が鮮明となる中でも上昇基調を維持している。足元の経済、企業業績の悪化より、むしろ感染拡大ペースの鈍化や経済活動再開を好感しているようだ。各国政府の迅速かつ大規模な政策投入で個人や企業への資金繰り支援が強化され、信用不安の連鎖がひとまず回避されたことも安心感を生んでいる。

ただ、株式市場がすでに底値から大きく回復していることから、さらなる上昇にはいくつかの条件が必要だろう。まずは、感染第2波を回避できるかが肝要だ。感染が再拡大すれば、回復に向かい始めた景気の腰を折ってしまう可能性がある。同時に、ワクチンや治療薬の実用化によって感染への対処が可能となることも重要だろう。政策面では、資金繰り支援が中心であったこれまでの経済対策から、需要喚起策に踏み込めるかどうかがカギを握る。

米国は3兆ドル規模の対策に着手

経済活動再開に伴い、世界経済は回復に向かうとみられるが、その程度やスピードは国や地域間で差が生じるだろう。そうした中で、投資対象として引き続き魅力が高いとみているのは米国株だ。そう考える理由は、米当局の対応力と企業の成長力にある。米国政府は新型ウイルスの流行に対し、すでに約3兆ドル規模という巨額の経済対策に踏み切っており、需要喚起策を含む新たな経済対策に着手している。

また、政府の対策に呼応するように、FRB(米連邦準備理事会)は大規模な資産買い入れを実施し、バランスシートは異例のペースで拡大している。米国の商業銀行の貸出態度が厳格化する中でも、融資額が急増している背景には、政府やFRBによる信用保証、債権買い取り策がある(図表)。今後も、企業の資金繰り悪化や経営破綻などの懸念は残るが、一連の政策が悪影響を緩和するだろう。企業の成長力については、ハイテク大手など、ポストコロナに加速するであろうデジタルシフトの恩恵を享受する強力な企業群を有することが米国の強みである。

米国商業銀行の企業向け貸出態度と貸出残高

米国市場の堅調さに支えられたリスクマネーは日本や欧州市場にも波及し、株式市場全体が底上げされている。新興国市場は、ブラジルやインドなどが感染抑制に苦慮しているが、いち早く都市封鎖解除に動いた中国は生産活動が正常化しつつある。新興国市場に対する投資意欲の本格回復には時間がかかるだろうが、感染抑制に成功し回復軌道に乗った東アジア市場が新興国市場上昇のけん引役となろう。

2020年3月以降の株価上昇では、ハイテクや生活必需品、ヘルスケアといった高バリュエーション・セクターの回復が顕著であった。市場全体のバリュエーションも足元で高まっていることから、中長期的に個別銘柄を選別していく重要性が一層高まりそうだ。

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