ポストコロナと米中冷戦下の為替相場の行方 金融市場の財政破綻懸念で下落圧力に晒される円
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を契機に、米中冷戦が新たな段階を迎えたことは外国為替市場にとって重要である。ポストコロナの米中対立は、米国にとってのわが国の地政学的な重要性を再び向上させるだろう。21世紀の冷戦は、米国による政治的な円高圧力を軽減させると予想される。
(記事内容は2020年6月4日時点)
「質への逃避」の恩恵は米国債と金価格に
2020年1~5月期における世界の金融市場は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に席巻された。2月26日夕、米疾病対策センター(CDC)が、米国初の市中感染のカリフォルニア州における感染経路が確認できない事例を発表したことで、金融市場の動揺が始まった。
3月13日には、トランプ大統領が米国における国家非常事態を宣言した。また、欧州では、3月10日にイタリア、17日にフランス、23日にドイツと英国が、それぞれ外出制限を適用し、さらに、ドイツとスイスは16日より事実上の国境封鎖を実施した。COVID-19のパンデミックと、それに伴う主要国における外出制限や国境封鎖の実施によって、世界経済は急速な収縮に見舞われた。2020年第1四半期における主要各国・地域の実質GDP(国内総生産)のマイナス成長は、米国が前期比年率5.0%、ユーロ圏が前期比3.8%、中国が前年比6.8%、日本が前期比年率3.4%となった。第2四半期にはさらにマイナス幅が拡大するとみられている。
主要金融指標をみると、今回のパンデミックによる経済収縮の動きを最も先取りしたのは米国債市場であった。10年物米国債利回りは、年初の1.88%から中国国内の感染拡大を受けて、1月末にはすでに1.51%まで下落した。2月上旬にはいったん1.62%まで反発するが、その後、米国国内での感染拡大から3月9日に0.54%まで急落し、以降、0.6%台を中心に推移した。一方、米国株式の本格的な下落は2月終わり以降となった。S&P500を見ると、年初から2月下旬まで極めて安定的に推移した後、米国内での感染拡大を受けて急落し、3月23日には年初比マイナス31.3%となった。しかし、それ以降は、主に政策対応(後述)を好感して、5月末には同マイナス6.6%まで反発している。
原油価格は、省エネルギーや代替エネルギーにシェールオイルという構造的な需給悪化要因に加えて、パンデミックと産油国間の生産調整の決裂という偶発的・循環的な要因が加わり、劇的な急落を記録した。年初61ドル/バレルであったWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は、4月20日にはマイナス37ドル/バレルまで下落した。無論WTIの価格がマイナスとなるのは史上初のことである。対して、米国債とともに「質への逃避」から世界経済大混乱の恩恵を受けたのは、金価格であった。2020年1~5月期に、金価格は最大15.1%の上昇となっている(図表1)。
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