トランプ政権が各国に示した新関税率
EU(欧州連合)とメキシコに30%の新相互関税
トランプ米大統領は12日に、EU(欧州連合)とメキシコに30%の関税を課すとした。発効は8月1日となる。EUに対する相互関税率は当初の20%から、メキシコに対しては一律関税の25%からそれぞれ引き上げられる。10日にはカナダに対する関税率を一律関税の25%から35%へと引き上げを発表していた。
7月9日の相互関税上乗せ分の90日間の一時停止期限を前に、トランプ政権は7日から新相互関税率を公表し始めたが、日本を含めて主な貿易赤字国に対しては関税率を新たに引き上げている。4月に発表された当初の相互関税率から平均値は引き上げられており、世界経済への悪影響は大きくなる。
トランプ大統領はEUに対して、「市場を開放し関税や非関税障壁を取り除けば、調整を検討する」と説明している。EUのフォンデアライエン欧州委員長は、8月1日の新相互関税発効までに合意に向けて引き続き作業を続けるつもりとしているが、他方で、「必要なら相応の対抗措置を含め、EUの利益を守るために必要なすべての措置をとる」とも述べている。
マクロン仏大統領も、「8月1日までに合意しなければ『反威圧措置(ACI)』を含むあらゆる手段を活用した対抗措置の準備を加速する」と明示している。このACIは、経済的威圧をかける国の金融や保険、デジタルサービスに制裁を科す仕組みだ。
EUは米国に対して「スタンド・スティル(現状維持)条項」の締結を求めていたとされる。これは、最終合意以降は追加関税を発動しないことを定める条項だ。さらに欧州企業が米国で生産して輸出した自動車の台数に応じて、欧州から輸出する自動車の関税を減免する「相殺メカニズム」を議論しているとされた。いずれについてもトランプ政権は受け入れなかったとみられる。
メキシコに30%、カナダに35%の新たな関税率
トランプ大統領は12日にメキシコに対して30%の関税を課すとした。メキシコは相互関税の対象外であり、それとは別に25%の一律関税が課せられている。トランプ大統領は、メキシコに対する関税率引き上げの理由に、合成麻薬フェンタニルの米国への流入防止対策の不備などを挙げている。
今回の関税率引き上げを受けて、メキシコは報復関税を検討するとみられる。トランプ大統領は、メキシコが報復関税を発動させる場合には、関税率をさらに引き上げるとしている。
トランプ米大統領は米国時間10日夜に、カナダからの輸入品に対して8月1日から35%の関税を課すと表明した。現状の関税率25%から引き上げられる。さらに、ブラジルに対して相互関税率を10%から50%へ引き上げるなど、トランプ政権との間に軋轢がある国に対しては、懲罰的に関税率を引き上げる傾向が強まっている。
トランプ政権は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に準拠する製品については引き続き免除が適用されるとしながらも、この方針も変更される可能性があるとしている。米国とカナダは7月21日の期限までに関税引き下げに向けた協議を行っているが、その最中にトランプ政権が一方的に関税率引き上げを通告した形だ。
トランプ大統領はカナダへの関税率引き上げの理由について、合成麻薬「フェンタニル」の対策が不十分なためだとしている。カナダがフェンタニルを巡り「米国と協力するのではなく、報復した」と不満を表明した。
トランプ政権が3月に合成麻薬フェンタニル対策、移民対策が十分とられていないとしてカナダとメキシコに25%の一律関税を課した際に、カナダは米国から輸入するオレンジジュースやウイスキー、二輪車に25%の関税をかけ、トランプ政権が自動車や鉄鋼・アルミニウムに分野別関税を課した際にも制裁関税を発動した。
トランプ大統領は、米国に制裁関税を課す国にはさらなる高い関税率を課す考えを示しており、カナダが報復措置を取った場合にも、35%の関税をさらに引き上げると述べている。
他方、トランプ政権に報復措置を取っていないメキシコに対しては、関税率を30%としており、両国の対応に差をつけている。
各国ごとの関税率の差にトランプの戦略
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