相互関税90日間一時停止のシナリオ別経済効果試算
相互関税が発動される
トランプ米政権は4月9日に、相互関税の第2弾を実施した。日本への関税率は24%となった。報復関税を打ち出した中国に対しては、34%の相互関税に50%の関税が上乗せされた。第2次トランプ政権の下で中国に対して課された追加関税は、合計で104%にも達した。
これを受けて中国は、同率の上乗せ制裁関税を米国に課すことを9日に決めた。トランプ政権にとって、中国が繰り返し報復関税でトランプ政権に対抗してくることは想定外だったに違いない。他の国と同様に、中国もトランプ政権に屈服すると予想していただろう。トランプ相互関税は、貿易赤字削減を狙った措置という性格から、米中間の貿易戦争という性格に、重心が移ってきた感がある。
第2次トランプ政権の関税策は、第1次トランプ政権と比べて格段に強硬なものだ。それ以上に予想外に強硬であるのは、中国の対抗姿勢だ。第1次トランプ政権時と比べて、不動産不況や海外からの直接投資減少などの影響で中国経済はより脆弱となっており、トランプ政権との本格対立は避ける、との見方が事前には多かった。中国がここまで強硬な姿勢を見せるのは、経済よりも安全保障を重視する習近平国家主席の政策姿勢が色濃く出ているからではないか。
中国政府は、足もとで景気対策を積極化させている。従来は慎重であった財政赤字の拡大を容認しつつ、積極財政政策を行う。このように今まで控えてきた積極財政政策を活用して、トランプ関税がもたらす中国経済への悪影響を一定程度軽減できるとの計算が、中国政府にはあるのではないか。また、統制経済のもとでは、米国からの関税による輸出減少、対米報復関税による輸入物価上昇などがもたらす国民生活への打撃を一定程度抑えることも可能だろう。
他方、報復関税の応酬を繰り広げる米国では、大幅関税による中国製品の輸入価格上昇は、国内物価を押し上げ、米国民の生活をより大きく損ねることになるのではないか。
相互関税90日間一時停止へ
トランプ大統領は9日に全面的に発動された相互関税の一部について、米国に報復措置を取らなかった75か国以上に対する適用を、90日間一時停止すると10日に突如発表した。他方、中国に課す関税は145%へとさらに引き上げた。
トランプ大統領は「75か国以上が貿易障壁や関税、通貨操作などに関して交渉を求めており、我々に報復措置を取らなかった」とした。5日に発動した一律10%の関税は引き続き適用される。
個別に25%の関税を一部導入していたカナダやメキシコも10%に下げる。自動車に適用された25%の関税については維持される。
このような措置は、報復措置を打ち出した中国にはより厳しい措置を打ち出す一方、報復措置を打ち出していない国には上乗せ関税の一時停止措置を示すという対応の違いを明確にすることで、中国に対して相対的に厳しい姿勢を示す意図があるだろう。また、中国に続いて米国に対して報復関税を検討する国に対して、それを牽制する狙いもある。さらに、中国に対する関税率を引き上げていくと、米国経済への打撃が大きくなることから、他国への上乗せ関税分の発動を一時停止することで、米国経済への打撃を和らげる狙いもあるのではないか。
そして90日間の猶予の間にトランプ政権は他国と協議を行い、90日後にはその結果を踏まえた新たな関税率を国別に示すことが予想される。
3つのシナリオで経済効果を試算
トランプ政権の相互関税について、先行き3つのシナリオが想定される。それぞれについて、世界、米国、日本への経済効果を試算しよう(図表)。日本については、25%の自動車関税と10%の相互関税によって、日本のGDPは短期的に0.42%押し下げられる計算となる。ただし、以下で示す日本のGDP(国内総生産)への影響は、こうした直接的な効果に加えて、関税がもたらす他国経済への悪影響が日本の輸出に与える打撃という間接効果も含めた試算値となる。
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